Q&A Diary | ナノ
 
《財前光との電話はいつもこんなもん》


「もしもし、俺っす」

財前からの電話はいつだってこう始まる。別にそれでも構わない。画面にはしっかりと“財前 光”と几帳面に半角スペースで区切った名前が表示されていることを僕は知っている。けれども僕はそれを見ない。財前からのコールは決まって23時半と24時の間と決まっているから。だからつい、その時間にバイブ音がするとなんの疑いもなく、急いで通話ボタンを押す。

「もしもしっ」

少し弾んだ調子で返事をしてしまうと、財前は必ず息だけで笑う。呆れたような、小馬鹿にしたような、それでいてちょっぴり照れくさそうな息で。そのあとは財前から掛けてきたくせにどうせなにも言わないから僕からこう声を掛ける。

「こんな時間にどうしたの?」

って。そうすると財前はしばらくだんまりになって、ハァッとわざとらしい溜め息をついてみせて、

「別に。なんでもないっすわ」

とぶっきらぼうに言う。僕はそれがどうしてもおかしくて、いつもふふって笑って財前に叱られる。

「なんなん。なに笑ってはるんですか…」
「別に。なんでもないよ」

叱られると負けず嫌いな僕は財前の真似をして言い返す。これをやると財前はムッとしてちょっと黙るけど。でもそんなところが好き。素直じゃないところが好き。好き。

他愛もない、今日は抜き打ちの小テストがあったとか。白石が渾身のギャグでスベったとか。帰りに金色と一氏とどて焼きを買い食いしたとか。そんなはなしを聞いて。僕も、今日は辞書を忘れて手塚に借りて、でも授業で辞書は一回も使わなかったとか。昼休みに外でお弁当を食べようとしたら風が強くてだめだったとか。あとは、放課後に女の子に呼び出されたとか。そんなはなしをした。

そして今夜も、ほんの少しの通話が「じゃあ、また」のひとことで途切れた。


Q.ごちゃごちゃしている?すっきりしている?
A.話題はすっきり。気持ちはごちゃごちゃ。なーんてね!

これもつづきもの。拍手に財不二希望をいただいたので。