Q&A Diary | ナノ
 
《本当はただの言い訳なんだけど真に受けて平古場しょんぼ凛ちゃん。》


「呪文か!!!」


スパコーン!手にしていたものを勢いよく、堪らず床に投げつけて、それからベッドに向かって大きくダイブした。ばふっ!と僕を受け止めてくれた羽毛布団の下で安物のスプリングが苦しそうにしている音が聞こえたけれど、もう済んだことだし気にするまいと更に顔をぐりぐりと布団に押し付けた。

英語の成績はそんなに悪くない。唐突になにを。けれども本当にそうなのだ。だからこそ悔しくてならない。どうにもこうにも掴めなくて、連敗し通しだ。

風呂にも入らずベッドを使うなんて行儀の悪いのはわかっているけれど、どうせお金もそんなにない下宿学生の身分故、日頃からソファベッド兼用なわけだし別にいいよね。と、そのままごろごろする。

彼は、凛は、今日何限に講義が入っていたっけか?

年度が変わって間もないから、頭の引き出しからは答えが出てきてくれそうにない。去年だったらこの曜日がいちばん帰りの遅い日だった。しっかり覚えている。

変わらずベッドでうだうだしながら、そこに置いてあった大学用のカバンへ手を伸ばす。もうすこし、よっ、ぐぐぐ。あとちょっとというところでどうも届かない。開けっ放しのチャックから顔を覗かせている憲法のテキストが恨めしい。あれが取りたかったのに。

そう、でも。日本国憲法の方がずっとスルスル頭に入ってくるのは不思議だな。自分でもそう思う。

頭の容量がオーバーしているわけじゃあないのにどうしてあれだけダメなのか?ウンウンひとりで唸って、ごろんごろんと何度も寝返りを打ってみたけどやっぱり原因不明だ。


「あー、」


何度も向きを変えたうちの、丁度顔が天井を向いたとき。カチャンッと玄関のロックの音がして、それからガチャガチャと扉を揺する音がした。


「あっぶな」


どうやら鍵が開きっ放しなのに気付かず、開けるつもりでまた鍵を掛けてしまったようだ。僕は急いで跳ね起きて、さっき床にベシッとやったのをベッドの下へ押し込んだ。


「あい!?帰ってたのか?って、」


平静を装っておかえりを言おうとしたら凛が訝しいような顔をした。


「なま、ぬー隠した?」
「別に、なにも、」


ベッドの脇に四つん這いでいたらやはり不自然らしいし、それにぎりぎり見られていたようだ。適当にスニーカーを脱ぎ散らかして真っ直ぐこちらへ向かってきた凛に僕は苦笑いしてみせた。


「エロ本か?」
「んなワケないじゃん。」
「じゃあ、」
「うそ、やっぱりエロ本。だから見ないで。」


ベッドの下に隠すものの定番ということにして、サッ、と後ろ手に。さっきよりもっと奥へと例のブツを押し込んで言い逃れようとするも、あぁ。やっぱりこういうときの凛はしつこい。


「ユクサーやー…」


嘘つきといわれたらまぁその通りだから言い返せることはなにもない。実際のところ僕が隠したいのはエロ本よりもずっとずっと健全なものなわけだけど、


「そんなら、どんなエロ本やし」
「えっと、人、妻」
「ふぅん。」
「不倫モノのSMモノだよ。ほら、ね。興味ないでしょ?」


なんだかいちばん引かれそうなタイプのことを言っておいて目を逸らした。


Q.いちばん最近読んだ本は何ですか?
A.人妻不倫SMプレイモノ。なわけないじゃん。やさしい沖縄言葉って本。どうしても頭に入ってこないんだよね…。それより凛が落ち込んじゃって大変だよ。「やーはわんのハダカよりもたるんだウィナグぅの方がしちゅんか…」ってさ。凛の方がすきに決まってるのにね。でもおかげで本はバレなかったよ(笑)


呪文か!…いや、本当に難しくて参ります。しょんぼりんちゃん。