Q&A Diary | ナノ
 
《鳳長太郎がわんわんお!わんわんお!》


「不二?風呂入んにゃいの?」


右肩にカラフルなタオルを引っ掛けて201号室を覗き込んだ英二がきょとんと首を傾げた。


「うん…今日は、まだいいや。」


ベッドにもたれ掛りながらカメラ雑誌に目を落としたままで、僕ははもそもそと英二の誘いを断った。
室内で不自然に巻き付けたストールを、片手で握る。


「僕は大丈夫だから先に入ってきて。英二。」
「えー!どうせ入るんだから今一緒にいけば良いじゃん!」


なるべくなるべく平静を装って。
嘘は得意な方だ。適当な言い訳くらいならすぐ言える。

が、どうやら僕は見誤っていたようだ。

英二にとって理由なんてものは最初からどうでもよかったのだ!

一緒にお風呂に行こうといつも約束しているこの時間に僕が入らないと言ったら、「なんで?」ではなく、真っ先に「やだ!」に行き着いてしまった。

部屋に侵入、僕のところまで駆け寄ってきたかと思えば強引に雑誌を取り上げて、ぶーっ!と頬をぱつんぱつんになるまで膨らして拗ねるから僕は困り顔になる。
本当ならば、親友のこんな可愛いワガママくらいは聞いてあげたいものだ。
けれども、だ。どんなに嫌だと言われても、僕には一緒にお風呂に入れないちゃんとした事情があるからそれはできない。

あれこれ理由を並べて諦めさせようと粘ってみたけど、あまり聞き分けのよろしくない英二はそれでウンと首を振ってはくれない。うん。難しい!


「ねぇ行こう行こう!今行こう!大丈夫だから!!!」


いや、なにが大丈夫なんだ。
状況もよくわかっていないくせにガクガクと体を揺さぶってくる英二に眩暈を起こしながら僕は相変わらず顔だけは笑っていた。もう笑顔の天才と呼んでもらっても構わないさ。


「えらい目にあった…」


英二の襲撃をなんとか流し、拗ねているのを慰め、それでも尚しょんぼりとした背を見送りながらやっと一息ついた。
その右肩のタオルは今では殆どずり落ちてしまっていて。まるで悲しみの象徴のようだ。申し訳ない気持ちになる。

でも仕方がない。と、溜め息交じりに201号室の扉を閉めれば、カチャリ。そう静かに音を立てたのと、さほど変わらないタイミングで二段ベッドの奥の方から不満気な声が降ってきた。


「ねぇ、いつも菊丸さんとお風呂いってるんですか?」


ベッドの柵にあごだけ乗っけてまるで項垂れる大型犬のようになっているのは相部屋の幸村でも白石でもなく、


「そうだけど。君だっていつも宍戸と一緒でしょ?」


氷帝学園2年生の鳳だ。
梯子を上がってクセっ毛の柔らかい銀髪を撫でると「そうだけど…」と、ますます不貞腐れてしまって仕方がない子だなぁとおかしくなった。
そのうち「そもそも宍戸さんは」とかぶつくさ言いはじめて「それ言ったら英二だって」と言い返したくなる。なるけどそこは、



「まぁ、今日は君のせいで英二一緒には行かないわけだし。大目にみてよ。」


軽い調子でウィンクしてみせる。集団生活の中でたまに得られる、ふたりでこういうゆっくりした時間ってすごく貴重だから。言い争いなんかに使いたくない。だから強く言ったりしないで、ふふって笑って言ったのに、


「そんなこと言ってると毎日同じ目に遭わせますよ」


僕のわんこはこうやってすぐに調子に乗る!
鳳らしくないちょっと腹黒そうな笑い方。これのあとには大体ろくなことがない。宍戸の前ではきっとこんな悪い顔しないんだろうなぁ。って、ハチ公のごとく従順純朴ないつもの鳳を思い出して笑けてしまった。


「ちょっと、なに笑ってるの?そんなに余裕でいるならこっちだって容赦しませんよ。」


いつも容赦とか遠慮とかしないくせに。
がっついて、ストールを放り投げて。勝手に首元に吸い付いてくるからペシッと頭を叩いてやった。

うちの大型犬はとっても利口そうに見えて「待て」のひとつもできないんです。困っちゃうでしょう?
なんて、甘やかしすぎるダメな飼い主が言うことではないだろうけれど。


Q.話したくないことは何ですか?
A.体中キスマークだらけで人目のあるときにお風呂に入れません。なんて言えないよ。ダメ!って言ってるのに止めてくれないから危うく白石と幸村にバレそうになるし!でも幸村のあの顔は…勘付いてる顔だった………。


(∪^ω^)わんわんお!(使用方法を誤っています)