Q&A Diary | ナノ
 跡部+仁王×不二 のつづき。
 
《仁王雅治がオンボロアパートを紹介する。》


オンボロもオンボロ。
俺たちの住まいはまぁカンタンに言ってしまえばそれに尽きる。

具体的に挙げればなんだ。
冬はヒュウヒュウと吹き込んでくる隙間風に骨の髄まで凍り付く。
夏はそれはそれで、無駄に陽当たりだけが良いのが仇になって頭がグラグラ揺らいでしまいそうな程に熱い。
梅雨なんかは特にサイアクで、あっちでこっちで雨漏りが止まない。

ちょっと前に思い切って天井の石膏ボードを外してみたときなんかは、水を吸ってパンパンに膨らんだ断熱材に三人揃って目を剥いた。
俺は溜め息を吐き、不二は苦笑い零し、跡部は舌を打った。
けれども俺が「このオンボロアパートに断熱材が入っとっただけマシなもんじゃろう」と言うとふたりは顔を見合わせて、それから笑った。

別段金に困っとるわけじゃあない。
跡部といえば、日本経済界隈でその名を知らぬ者はいない。とまで言い切れるほどの実業家であるし、俺は俺でなんというか。
ちょっとばかし大きい声では言えないような商売で大成している。例えば、詐欺師であるとか。例えばと言ってもそれひとつじゃが。

そんなこんなで寧ろ、金銭的には至って豊かなこと極まりないわけである。
ただでさえそんななのに、好んでオンボロのアパートなんかに住んでいるから金は余りっぱなしだ。
かといって贅沢な食事もしないで、節約好きの主婦御用達の激安スーパーの世話になっているからこれはもう本当に宝の持ち腐れもいいところと文句を言われても仕方はあるまい。

たまにバラエティ番組なんかにカリスマイケメン実業家なる枠で跡部が呼ばれて、いつだったか「住まいはやはり豪邸なのか」とテレビ局きっての美人アナウンサーに問われたことがあったが、その時の奴の何とも形容しがたい表情は正しく傑作だった。

言えるわけがないだろう。
冬は隙間風がひどくて、夏は死ぬほど暑くて、雨漏りのオプション付きのオンボロアパートに住んでいますなどと。

オンエアの日に不二とふたりソファで笑い転げたら、案の定跡部に思い切り銀髪を引っ張られた。俺のアイデンティティーに何をするか。その夜はギャンギャン怒鳴り合って、薄い壁の向こう側から更なる怒声が飛んできたものだ。

しかし納得のいかないのは不二にはお咎めなしだったということだ。
まったく溺愛がすぎる。などと俺が言えることではないけれど。
実はこの前も、新宿のLaduréeでお高いマカロンをこっそり購入して不二とふたりでこれまたこっそり食べた。
ここだけのはなし、跡部にはナイショで不二を甘やかすのが好きなのだ。俺は。抜け駆けではない。

月一でそういうちっぽけな贅沢品を不二に貢いでいて、あの日もたまたまそういう日だった。
黒い紙袋を片手に提げて玄関に靴を脱ぎ捨てたら、やたらに薄暗い部屋にテレビの明かりだけがチラチラと揺らめいていた。

おかしい。

直感的にそう思った。
俺が暗い部屋でテレビを見ていると、不二は「目が悪くなるからダメ!」と子供向け番組のような台詞でいつも俺を咎めるからだ。
跡部かとも思ったが、今日は「遅くなるからシュウを頼む」と言伝を預かっているからそれも違う。

建付けの悪いガラス戸を引くと、無数の錠剤と一緒になって茶色くて小さい頭がコロンとローテーブルに転がっていた。


Q.どこに住んでいますか?
A.ボロのアパート。家に帰ったら不二が自殺しようとしちょった。服薬じゃ。寝とるだけじゃったがどうしようかと思ったぜよ。あんまり驚かせんでくれ。


まだつづきます。