《ロッカールームで入江奏多に捕まってどうしてこうなった》
ついこの間までミジンコほどの接点もなかったあの人が、どうも あの日 を境にやたらとしつこくちょっかいを掛けてきたがる。 正直言って、僕は相当滅入っているんだけれども仮にも年上であるあの人をそう蔑ろにできるはずもなく、
「下ろしてください、入江さん」 「えー、もうちょっとだけ。いいでしょ?」
よくないよくない! 入江さんの膝の上に乗せられている僕の気持ち、きっとこの人にはわからない!
…いや、そうでもないかもしれない。 この人ならこの惨めさをわかってやっている方がよっぽどありえる。 自分もなんだかんだと言われているけれど、この人の腹黒さといったら幸村といい勝負かそれ以上なんじゃないだろうか。敵う気すらしない。
ところは無人のロッカールーム。 ブルーの飾り気ないベンチにまず入江さんが、そしてその入江さんの膝のうえに僕が座っているわけなのだけれど。
「絶対…おかしい…」 「ん?なにが?」 「いえ、なんでもありません…」
うしろからきっちり抱きしめられて逃げられない僕に入江さんの表情は見えないけど、ときどき首元がくすぐったくなるからきっと笑っているんだろ。 男なんかとこうしてなにが楽しいのか僕にはまったく理解できないしそもそも、
「別に僕じゃなくても良いじゃないですか…」 「だめだめ、不二くんみたいにちっちゃくないと。」
げんなりした僕の小言なんてまるで気にせず、爽やかにバッサリやられる。
しかも、ちっちゃい、だと。 自分でも気にしてることをズバッと言われたら誰しもムッとするものだ。
ちょっと不機嫌になっていたら、入江さんがうしろから僕のほっぺをツンツンして「だって鬼とか乗せたら僕潰れちゃうし」っていうから、まぁ、それはそうだけど。と苦くて渋くて煮え切らない気持ちになる。
そうは言われども納得いかないものは納得いかないし。 ちっちゃいのが良いんだったらわざわざ僕みたいに中途半端じゃなくても良いじゃないか。と思うのは当然で。
「なんならうちの越前でもお貸ししますよ」
これ以上の適任はいないはず。 僕が入江さんの条件にぴったりくる提案を親切にしたっていうのに。
「だめだめ、だって不二くんが好きだからこうしてるんだし」
フフフッって、息がかかってまた首元がくすぐったくなった。 それから今度は心臓のあたりもなんだかそんなカンジになって、もうこの人よくわからない。
Q.今日無視したかった人は___です。 A.入江さん。みんなよりちょっと遅れてロッカールームで着替えてたら捕まって膝の上に乗せられた。抱きしめられて逃げられないし、サラッと好きとか言ってくるし…。あの人本当によくわからない。僕もどうしてこんなに気にしてるんだろう。なんか、ヘンな気分。モヤモヤする。
モヤモヤ不二くん。 |
|