《いつまで経ってもお兄ちゃんのオモチャな不二裕太》
「おねがい、裕太」
久々の帰省でこれはあんまりなんじゃないか。 にじり寄ってくる兄貴に俺は、絶対嫌だ!と首を振る。 振る、振る、また振る。 が、兄貴は怯まない。頬の筋肉の様がちょっとさえ変わらない。笑顔のまま俺を壁際まで追いつめてくる。
「無理だ、兄貴、本気で、」 「大丈夫だから。ね?」
大丈夫とか、大丈夫でない、とか。 そういう問題じゃあないのだということをこの盲目の兄貴に言ったところで仕方がないのは俺自身がいちばんよく知っている。 きっと、この世の中の誰より知っているだろう。
昔からおかしなモノを食わされたりやらされたり着せられたり。 兄貴に強請られてろくなことになった試しなんて一度だってなかった。
だから今日だってそうに決まっている。 …などと長々といろいろ言ったところでどうしようもないから声を大にして言う。
兄貴のオモチャになるのは今日かぎり!
「なんで俺がセーラー服なんて着なきゃなんないんだよ!!!」 「………」 「………」 「なんで?」
絶句した。
なんで?ときた。なんで?と言いたいのは寧ろ俺の方だ。 なにがどうして中2にもなった男がセーラー服なんか着なきゃならないんだ。
確かに、だ。 幼少期にこれまたおかしな妖精の恰好だのをさせられた記憶は確かに俺にもある。 それで兄貴が喜ぶのも知っている。
が、これはいろいろと違う気がしてならない。例えば、
「兄貴…」 「なに?」
これ、女子の制服だよな。などとは口が裂けても恐ろしくて言えない。 言わせないだけのなにか妖気のようなものが兄貴から放出されているのが俺にはよく見えるからだ。
なんて意気地なしな俺なのか。
この無敵の兄貴を前にするとついそうなってしまって困る。 これではなんのためにひとり実家を離れて寮に入ったのか… いや、決してこんな次元の低いことのためにそうしたわけではないけれど。
そんなことを考え唇を噛み締めている間にもジリジリと兄貴との距離は詰まっていく。 あぁ、ダメだ。もう逃げられそうにない。
そう諦めるほど近付いた兄貴の顔を前に、
(ぜってぇ兄貴の方が似合うだろ…)
などと思えている俺は案外まだまだ余裕なのかもしれない。
Q.___をやってみるのはやめたほうがいい。 A.兄貴にたてつくのはやめた方がいい。あの後散々な目にあった…。恐ろしくてこんなとこに書けねぇよ…。けど俺は兄貴のセーラーの方が見たかっ(日記はここで終わっている)
なにがあった |
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