《それなら僕は恋から卒業します。報われない加藤勝郎》
「卒業おめでとーございます!菊丸センパイ、不二センパイっ!!!」
しゃがれた明るい声が言った。 かつて、3年レギュラーだった先輩方の教室をひとつひとつ回っていく。 残り2クラス。ついに覗き込んでしまった3年6組の教室。
「色紙じゃん!1年みんなで書いてくれたの?サンキュー!」 「ふふっ、ほんとだ、スゴイ。後でゆっくり読ませてもらうよ。ありがとう」
ほとんど無理矢理、「1年を代表して、このテニス歴2年の堀尾さまが渡すからな!」と色紙を渡す役目を奪われた。 相変わらずな堀尾くんに、いつも通り「まぁいいか」なんて思っていたはずが、ほんの少し「やっぱり」なんて後悔する。
今日は卒業式だ。
僕たちのじゃない。憧れ続けた3年生の先輩たちの日だ。 普段と同じ顔に見えるけど、でもそう見えるだけ。今日は心から目を細めている先輩の顔を、僕はそっと、でもしっかりと焼き付けるように見つめた。
「英二、見て」
先輩が色紙の一点を指さした。
「んー?」
覗き込んで、先輩の指先を追う菊丸先輩。どきり、と胸が跳ねた。
「これ絶対に越前の字だよ、ほら。この素っ気ないやつ。」 「うわっ!最後まで可愛げにゃいやつー!」 「越前らしいね。」 「マジらしすぎて呆れる!つか名前にゃいの?」 「うん、ない。でもわかる。」
先輩が色紙を撫ぜた。 本当に、本当に幸せそうな表情をして。
「ねぇ、不二センパイ」
ヒーローは遅れてやってくるものなのだと、聞いたことがある。
ずっとずっと見てたから。 だから僕らの背中から聞こえてきた声に、先輩の顔がもっともっと幸せそうに綻んでいくのかよくわかる。 わかってしまう。
不二先輩、ご卒業、おめでとうございます。
Q.あなたにとっての強敵は誰ですか? A.リョーマくん。今日は先輩たちの卒業式だった。不二先輩が好きだった。僕なんかリョーマくんみたいにテニス上手くないし、先輩のこと見てるだけで十分だと思ってた。でも言っておかないと後悔する気がして色紙に書いた。直接言う勇気はなかったから。名前も書けなかったけど。「ずっと、好きでした。」
不二くんは家に帰ってからこのメッセージに気付きます。 そして10年、30年、もっともっと。誰が書いたものなのかわからないまま時間が過ぎていきます。報われない恋心にサヨナラ |
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