次の日、学校から帰ると覇王はまだ帰っていないようだった。図書館に返却に行ってるのだろう。
……俺はもう、あそこには行けないのだから。


部屋で雑誌を読んでいると携帯が鳴った。ランプの色は緑。着信を告げる色だ。
誰だろうか、と携帯を見れば【覇王】と書かれている。


「もしもし、覇王?どうしたんだ」

「十代、今は家か?」

「うん、家にいるぜ!」

「悪いが迎えに来てもらえないか。今図書館にいるんだが雨が降り出して帰れないんだ」

「え……」

「無理ならいい。もう少しで止むかもしれないからな」

「い…いや!行くぜ!大丈夫だ!!」

「……そうか。なら頼む」

「おう!ちょっと待っててくれよな!」


電話を切ってから溜め息を吐いた。よりによって図書館。
……覇王には悪いけど、すごく行きたくない。

でも覇王が困ってるなら助けたい。いつもの覇王なら雨が降っていてもそのまま走って雨に濡れて帰ってくる。
なのにわざわざ俺に電話をしてくるということはそれほど困っているのだろう。図書館なら本を借りたんだろうし、借りた本が濡れたら困るもんな。

俺は覇王と自分の傘を持って家を出た。
マンションの廊下に出ると確かに灰色のどんよりとした雲が空を覆って雨が降っていた。西の方には更に黒い雲がいる。早くしないと酷くなりそうだ。急ごう。

パシャパシャと音を立てながら水溜まりだらけの道を歩いて図書館まで行く。近道である公園を通り抜ければ図書館はもう目の前だ。


図書館の入り口に着いたがそこに覇王はいなかった。随分雨が強く降っているので恐らく中で待っているのだろう。

「………中、行かなきゃダメだよな……」

何だか図書館がダンジョンか何かに見える。もっと言えば自分の苦手な敵ばかり出現するダンジョンに見える。そんなことを思ってる間にも雨脚は強くなって来ている。大きく深呼吸し入り口に一歩踏み出した。

「覇王!」

覇王は図書館に入ってすぐ横にある壁にもたれ掛かっていた。

「十代、雨の中すまなかった…」

「ううん、覇王の役に立てたならよかったぜ!」

「そうか…ありがとう」

微笑む覇王に俺も笑顔を返した。

「それじゃ、帰ろうぜ!今日は俺が夕飯作るぜ!」

「……いい加減に出てきたらどうだ?」

「へっ?」

全然噛み合っていない言葉に間の抜けた声を出してしまったが、その言葉は俺に対してではなかった。

「…………」

「なっ………ヨハン…!?」

例の創立者の銅像で死角になっていて見えなかったがその後ろからヨハンが現れた。

「こいつが俺を十代だと勘違いしてな、何かいいたげだったので借りてきた」

大方昨日十代の様子が変だったのもこいつだろうと覇王はヨハンに目をやった。

ヨハンはそこに立って黙り込んでいる。何だよ、何か言えよ。
覇王はただそこでヨハンと俺のことを見守っているだけだし、俺から何かアクションを起こさないとこの状況からの進展はないらしい。

逃げるか、何か言うか、選択は2つあった。

数秒間だけ考えて、選択を選び実行に移そうとしたところでヨハンの方が一足早く行動に移した。


「十代にはお兄さんが、いたんだな」

「あー……うん。覇王って言うんだ」

「あまりにも似てたから、俺、間違えちゃってさ」

「うん……よく間違われる」

「昨日のこと……その…」


ああ、そうなるよな。昨日の俺の態度は確かに悪かったのだ。自分から案内を願い出ておいて、途中で帰るなんて失礼なことに違いなかった。


「……昨日は、いきなり帰っちゃってごめん…」

「いや、それは構わないんだ。でも、俺が何かしちゃったから……十代は気分を悪くしたんだろ?」

「え……」


気分が悪くなったのは事実だが、ヨハンが何かしたわけじゃなかった。
ただ、妙な痛みが俺を襲っただけで。これはきっと誰かが悪いわけじゃない。
でもその時のことをヨハンに話せるかと言われたらそれは無理だった。言いたく、ない。

「あの、ヨハンが悪いわけじゃないから!……だから昨日のことは気にしないでくれ」

昨日の痛みを僅かに思い出し、ギュッと拳を強く握りながら言った。







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