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「まず、これ!」
指を指された方を見るとつるつる頭の人の銅像があった。
「誰、このおっさん…お坊さんか?」
「あははは!お坊さんって!まぁ、そうだな、ハゲてるもんな!この人はここの図書館の創立者で鮫島っていうんだぜ!」
そんな凄い人には見えないなぁと思っていると、じゃあ、次!といって再び俺の腕をぐいっと引っ張る。
「次は何があるかなー?多分あの辺に雑誌コーナーがある……ような気がする!」
案内というより探検という言葉が合ってるんじゃないだろうか…。でもそれがまた楽しい。
「よし!ここが雑誌コーナー……じゃないみたいだな!」
「ちょ…違うのかよ!しっかり案内してくれよ!」
「わりぃ!……えっと…ここは…絵本と…裏側には児童書コーナーだな!」
近くにあった案内図を見ると絵本、児童書コーナーと雑誌コーナーは真逆の場所に位置しているようだった。
「雑誌コーナーはあっちみたいだぜ!」
「あれ?ヨハンじゃないか!」
俺の声に誰かの声が重なった。声の聞こえた方に目をやると長身で黒髪の右目に包帯を巻いた男性が立っていた。
「あっ、ジムー!どうしたんだこんなところで!」
ヨハンが嬉しそうにジムと呼ばれた男性に駆け寄る。
「カレンに何かwonderfulな本を読み聞かせたくてね!youこそ、カウンター以外にいるのは珍しいな」
「あぁ、俺は友達に図書館の案内してたんだ!」
なっ!と肩を叩かれ、どうもと軽く会釈をするとジムさんも「Hello」と微笑んだ。
「俺はジム・クロコダイル・クック。ジムって呼んでくれ。ヨハンとはuniversityの同級生だったんだ」
「俺は遊城十代。近くの高校に通ってる。よろしくな、ジム」
右手を差し出されたので同じように右手を出し、握手をする。
それにしてもこの人は変な話し方をしている。途中で英語が交ぜられていて、よく分からない。英語が苦手な俺はゆにばーしてぃーって何だろう……と考えた。何かそういうテーマパークがあった気がするけど……。
ジムがニコニコと笑い、俺が悩む中、ヨハンは握手し合うのを見守っていた。
そして「やっぱり友達が仲良くなってくれるのは嬉しいぜ!」と言ってうんうん、と頷く。
「でも……案内、って言ってるけどヨハンのことだからlostしたんじゃないか?」
「う……迷ってなんかないぜ!!」
「ふふっ、そうかい?ならいいけれど」
くすくす笑いながら言われて、ヨハンはムッとしている。
初めて見た、拗ねたような表情。俺には見せたことのない、一面だった。
それに胸のあたりが苦しくなってしまう。何だろう、これ。
「………十代?どうした?」
「え?」
「いや、何か変な顔してたからさ。具合でも悪いのかなと思って」
平気か?と聞かれた時には胸の痛みは消えていたので笑って大丈夫だぜ!と答えた。「じゃ、俺は適当に本をchoiceして帰るから、案内しっかりな!司書さん」
ジムはそういってヨハンの頭をぽんぽんと撫でるとヨハンは恥ずかしそうに…けれどどことなく嬉しそうな表情を浮かべていた。そんなヨハンを見て俺は何だかまた胸が痛んだ。
「よし、じゃあ!次行くか!」
痛みが収まらず返事ができない。
「十代…?なぁ…本当に大丈夫か?調子が悪いなら休むか?」
ヨハンが心配そうに顔を覗き込んで来る大丈夫と言いたいが、声に出せない。
「熱は……」
そういい俺の額に手を当てようとした…が、俺は思わずその手を払ってしまった。
「……十代?」
「あっ……ご……ごめん……なんでもない!!今日は…もう帰る!サンキューな!」
十代!と呼び止められたが振り返ることなく図書館を飛び出した。やっぱり図書館は…行くもんじゃなかったな…嫌な気持ちになるだけだ…。自転車を漕ぎながらもう図書館には行かないと心に決めた。
「ただいまー」
「おかえり、十代……どうした?」
「えっ!?なんでもないぜ!」
「…………そうか」
覇王は鋭い。ちょっとした俺の仕種や表情から調子や気分を読み取ってくる。そうかと言うものの納得はしてないだろうな。
「…それはそうと借りたものはちゃんと返してきたか?」
そう尋ねられあっ!と声を出した。そんな俺に覇王はふぅっと溜息をつくいた。
「ならば俺が明日、返してこよう。」
「あっ……サンキュー…」
…これでもう図書館に行く必要はないんだ。これでいいんだと思う半面これでいいのかとも思う自分がいた。
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