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浴槽の外で身体を軽く流し一気に浴槽にダイブしたいところだが、覇王の入れる風呂は熱いので足先からゆっくり浴槽に浸からなければいけなかった。
「……あんま面白くなかったな…」
浴槽に浸かりながら先程見たビデオのことを思い出した。
「でも…まだ1巻だし…これから面白くなるのかな…」
パッケージに世界名作劇場と書かれていたことを思い出した。名作、しかも世界の名作ならこれから面白くなるんだろうな。何より…
「アンデルセンさんのお勧めだしな」
パッとアンデルセンさんの笑顔が思い浮かんだ。普通にしていれば俗に言うイケメンってやつなんだろうけど、笑顔は俺から見ても子供っぽいと思う程に無邪気で可愛い。
「………もてるんだろうな……彼女いるのかな……」
無意識に出た言葉が浴室の壁に反映し俺に降ってきた。途端に恥ずかしくなりぶんぶんと首を振った。彼女がいるとかそんな野暮なことを気にするものではないし彼女がいようがいまいが俺には関係ない。
「……くっそー…こんなに顔が熱いのは……風呂が熱いせいだからな!!」
ざばっと浴槽からあがり逃げるように浴室に置いてあるタオルと着替えを掻っ攫うようにして浴室を後にした。
浴室を出て、髪の毛をタオルで拭きながらキッチンへと行く。冷蔵庫を開け、紙パックの牛乳をグラスへと注いでゴクリゴクリと全て飲み干した。ぷはぁーと一息吐き、口元を拭う。
「やっぱりお風呂あがりは牛乳に限るぜ!!」
リビングへと行けば覇王がソファで先程見たDVDのケースを見ているようだった。
「覇王?風呂空いたぜー」
「ああ、わかった。すぐに入る」
忘れずに返せよ、と言いながらDVDを渡された。それを受け取ると覇王は浴室に向かったようだった。
パッケージには風車小屋がある丘で女の子と犬に挟まれて絵を描く男の子がいる。
実際の中身はこんな感じじゃないのだから表紙詐欺ならぬパッケージ詐欺だと思う。いつかこんな場面が出てくるのかな…と思いつつ、自室へ向かった。
机の上に置いてあった鞄にDVDを入れた。
俺のことだから、返す日に持って行くのを忘れる気がした。なら明日にでも学校の帰りに返しに行けばいい。どうせ通る道だ。サッと返してサッと借りれば頭が痛くなることもないだろうし……。
ベッドに置いてある毛玉のようなクッションをもふもふと撫でながら横になった。
目を閉じた瞬間、頭の中にアンデルセンさんの笑った顔が浮かんで、風呂に入っていた時と同じようにカッと顔が熱くなる。次の日、授業が終わるとその足で図書館へ向かった。
3階のAVコーナーに行く前に1階の貸出カウンターをちらっと覗いてみたが、アンデルセンさんの姿は見当たらなかった。
「…今日はいないのか……」
「何が…ないんだ?」
ぽつりと独り言を呟いたつもりだが、それは独り言として成立しなかった。
「うわっ!?………アンデルセンさん!」
声に驚いてビクリと俺の心臓が跳びはねた。俺の後ろにいつの間にかアンデルセンさんが立っていた。
「うわっ……って…何だよ、うわって……」
「す…すみません…」
「いや、いいけどさ!それより何か探してたんじゃないのか?」
まさか、探していたのはあなたです何てこと言えるはずが無く、どぎまぎしてしまう。そんな俺を見てアンデルセンさんは、何かを理解したように、
「あー、わかったわかった!それならこっちだぜ!」
と言い、俺の腕をぐいっと引っ張る。急なアンデルセンさんの出現で心臓がひっくり返りそうになったのにこんなに強く触れられ心臓は破裂しそうにバックンバックンとしている。何だよこれ!わけがわからない!
「ほら!ついたぜ!早く行ってこいよな!」
アンデルセンさんの声でハッと我に返ると目の前にはWCと書かれたドアがあった。
「へっ?トイレ?」
「何だよ?トイレ探してたんじゃないのか?」
どうやらさっきの俺の様子を見てアンデルセンさんは俺がトイレに行きたいと思ったらしい。実際トイレに行きたいわけではないが、何を探していたか聞かれたら答えられないので「そうです」と答えトイレに入ることにした。
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