図書館から出た俺は駐輪場へと向かう。そこに停めたお気に入りの赤い自転車で、図書館から家への道を駈けていく。



駅を抜け、住宅街に入りブレーキをかけつつ坂道を下る。風が勢いよく当たってきて気持ちが良かった。

漕ぎ進むと見えてきた、九階建ての白い壁のマンションが俺の家だ。
エレベーターで8階まで上がって廊下を進み8階の一番奥、810号室へと向かう。
ガチャリ、とドアノブを回して入りながら「ただいまー!」と言えば、パタパタとスリッパの音が響いた。

「おかえり、十代」

「ただいま、覇王!」


兄である覇王が黒のエプロン姿で出迎えてくれる。それに笑顔で応えた。
俺はスニーカーを脱ぐと整えて隅に置く。面倒くさいが、こうしないと覇王がうるさいのだ。


「本は返してきてくれたか」

「ああもうバッチリだぜ!ついでに図書館で借りてきたんだー」

「そうか。だが無くしたりするなよ」

「大丈夫だよ!!それより今日の夕飯、エビフライにしてくれたか!?」

「もちろん。すぐに夕飯にするから着替えて手を洗ってこい」

「はーい!」


自分の部屋に鞄を置いて、部屋着へと着替えてから手を洗う。今日の夕飯が好物のエビフライの為にいつもより丁寧に洗った。

リビングに行って、食卓へとつけば綺麗なきつね色に揚げられたエビフライが皿に盛られている。

「今日もうまそうだぜ!いただきます!!」

パン!と手を合わせてから、エビフライにソースをかけた。
箸で掴んで、エビフライにかぶりつけば海老の身のぷりぷりした食感と、衣のサクサクが実に楽しい。甘酸っぱいソースもエビフライをよく引き立てていた。


「うまーい!やっぱ覇王は料理の天才だな!兄弟じゃなかったら嫁にもらいたいところだぜ!」

「…下らないことを言うな」

「あー!もう!冗談だよ!冗談!相変わらずノリが悪いなぁ……」

ふぅ…っとため息をつかれてしまった。覇王はノリが悪い。性格が悪いわけではないのだがとにかくノリが悪い。更に俺以外の前だとポーカーフェイスであり、弟の俺でも何を考えているかわからない時がたまたまある。

「あっ!そういえばさ!図書館で面白い司書の人がいたんだぜ!」

「面白い……?」

俺は今日図書館で会ったアンデルセンさんのことを覇王に話すと「とんだマヌケだな、どんなマヌケ面をしているか拝んでみたいぐらいだ」と呆れていた。




夕食の後片付けを終え一段落したところで覇王を誘って今日借りたDVDを見ることにした。

「どっち見ようか?」

「どちらでも構わない、お前が借りてきたものだ、お前が選べばいい」

「うーん…じゃあ…とりあえずこっちでいっか」

重ねて置いてあるDVDの上に乗っている方を取るとそれはアンデルセンさんが進めてくれた例の少年と犬のアニメだった。

DVDプレイヤーにセットするとウィーンと読み込み音がして暫くするとオープニングが始まった。



聞き覚えのある歌が流れ、男の子や女の子、がくるくる踊ったりしている。途中で犬の鳴き声が入ったりしていて何だか耳に残る歌だ。
オープニングが終わり、アニメが始まった。

どうやらおじいさんと小さな男の子が貧しいながらも楽しく暮らしている話のようだ。
その男の子が街で、酷い扱いを受ける犬を見かけて可哀想に思い、こっそり水を飲ませてやっていた。
後で飼い犬になるらしいが、一体いつなるのだろうと考えながらぼーっと見ていたら、覇王はつまらなくなったのかうつらうつらと眠そうにし始める。
のんびりした展開だもんな……。
唯一緊迫したのは小さな男の子が河に落ちて、それを助けるため主人公が泳げないのに飛び込むシーンぐらいだ。

結局、二時間程度のDVDで肝心の犬はムチで打たれているだけだったのだ。


「……このアニメは、随分とのろまな進みをしているな」

「そうだなー。子ども向けだからしょうがないのかも」

「それにしたって犬がほとんど出て来なかったぞ。犬の飼い主もムチの扱い方がなっていないし」

「へ?扱い方?」

「あ……いや、何でもないぞ」

「…………そっか!」


ここはきっと、触れない方がいいのだ。兄が何故ムチの扱い方を知ってるかなんて、知らない方がいい。
この前覇王軍とか名乗る人も家に来たけどあれはきっと覇王の部下なんだ。うん、そうだ。
頭の中で納得させた俺は何も言わずにDVDをプレーヤーから取り出すと、ケースにしまった。リビングの棚に置いて、

「先に風呂入っちゃうなー」

覇王に一言告げてから浴室へ向かった。







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