男にドキッとするなんておかしな話だけど、あんなことをした後だし、どうしても意識してしまう。
このままじゃあ気まずくなる……何とか気にしないようにしないと。

「あ、ヨハン!早速食べてみたらどうだ?」

「ああ!そうだな。せっかく十代にもらったんだ。早速頂くぜ!」

抹茶黒蜜プリンは抹茶プリンの上にクリームがのっていて、そこに別添えの黒蜜をかけることになっている。
ヨハンはプリンカップの蓋をカポッと外し、黒蜜をたっぷりとかけた。

そしてビニールに包まれたプラスチックのスプーンを出すと、抹茶黒蜜プリンをすくう。
スプーンの上でふるふると震えているプリンを、そのまま口に入れたヨハンは幸せそうな顔をした。

「ん〜!うまいっ!」

「な?美味しいだろ?」

「ああ!ありがとな、十代!」

「どういたしまして!」

「ほらっ、十代も!」

再びプリンをすくったスプーンをヨハンは俺に向けて差し出してくる。これは…食えということだろうか。
ちらっとヨハンを見るとにこにこしながら俺が口を開けるのを待っていた。けど、ここで遠慮をしたらまるでヨハンを意識しているように思われるんじゃないか。
それで気まずくなることは俺もヨハンも望んでないはずだ。

大丈夫、友達ならこれぐらいする。
誰にしているのか分からない言い訳をしながら、ヨハンの差し出してくるスプーンを口に含んだ。
濃厚な抹茶と甘いクリーム、とろりとした黒蜜がお互いを引き立て合いながら口いっぱいに広がる。

「うん!うまいっ!」

「へへっ、人と一緒に何かを食べたのって久しぶりだ…!」

「そうなのか?」

「ああ、俺の仕事って不規則な時間に勤務だからさ、なかなか一緒に食べれる相手がいないんだよ」

確かに、あの時間に仕事を終えてから一緒に食事出来るような人はいないだろう。
ヨハンは忙しいんだな……。


「あのさ…ヨハン、よかったらこれから時間が合えば一緒に…飯食わないか?」

「えっ!?」

「ご覧の通り俺は一人暮らしだしさ、やっぱり誰かと食べる飯って楽しいしうまいと思うからさ!」

そういえば給食は美味しかったな…きっと一人で食べたらそこまで美味しく感じないんだろうな。
きっとヨハンと食べる飯も美味いんだろうなと考えるもヨハンからの返事はなかった。
まずいことを言ったのかとヨハンの方を見ると呆けた顔でこっちを見ていた。

「……ヨハン?」

「あ……いや…ごめん…すっごく嬉しくて言葉が出なかったぜ」

「よかった……嫌かと思ったぜ…」

「寧ろ大歓迎だ!」

善は急げと互いに次の休みを確認すると来週の土曜が丁度休みだったのでそこで一緒に飯を取ることにした。ヨハンは余程嬉しいのか赤ペンでグリグリと丸を付けていた。
実は凄く寂しがりやなんじゃ……と思うとまた可愛く思えてきてしまった。

「んー……そろそろ眠いかな…俺はどこで寝たら良いかな。」

時計に目をやると時刻は午前8時過ぎ。あの事件から5時間程経っていた。

「あ…じゃあこの布団使ってくれよ!」

「えっ、そうしたらお前は?」

「毛布なら余分にあるしその辺で寝るよ」

布団を敷くために立ち上がろうとするとヨハンにぐいっと引っ張られた。

「床で寝ると身体スゲー痛くなるからダメだぜ!それにまだ寒いしさ!」

「でも布団は余分にないし…」

「なら一緒に寝れば良いだろ?」

その答えに思わず「はぁ!?」と返したがヨハンはすっと立って布団を敷きはじめた。

「十代もこいよ!」

敷いた布団に寝転びながらヨハンは手招きをしてきた。他人からこの光景を見れば完全にヨハンが家主で俺が客である。
そう思うと何だか少しだけ腹が立った。

「ここは俺の家でそれは俺の布団だ!!」

ヨハンにダイブするとぐぇ!?と変な声を出したがすぐに笑っていらっしゃいと頭を撫でられた。

「誰かと寝るの久しぶりだから何だか嬉しいぜ…」

「俺も……久しぶりだけど」

ヨハンは嬉しいと言ったが俺は恥ずかしかった。これが嬉しいというのはやっぱり…

「ヨハンって寂しがりやなのか…?」

「…………」

「……ヨハン…?寝ちゃったのか」

すやすやと眠るヨハンはまるでこどものようだった。
見た感じのヨハンは綺麗で大人の男と感じるけど、こうして蓋をあけてみると意外とこどもっぽいんだよな…やっぱりかわいいな…
なんて思っているうちに俺の意識も遠退いていった。

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