「あっ!アニキ!おはようございますドン!」

俺に気づくと剣山はペコリと頭を下げる。剣山の研修中によく面倒をみたことから俺をアニキと慕ってくる。

「おはよう、剣山。今日も元気だなぁ」

「アニキに会えたから元気になったドン!本当は少し眠たいザウルスー」

剣山は「〜ドン」「〜ザウルス」など変な語尾をつける癖があり最初は客の前でも言ってしまい直すのに一苦労した。方言みたいなものなのかそれ以外では相変わらず語尾をつけている。

客のいない時は雑談も交えていたせいかあっという間に0時を迎えた。

「お先に失礼しますドン!」

「あぁ、お疲れ!気ぃつけて帰れよ!」

俺にはまだあと6時間も仕事があると思うと何だか気が重くなった。

3時頃になり客足も途絶えたので、お決まりの掃除をし陳列棚の整理をする。

「ここで最後…だなっ」

下の方の棚を整理をし終わり立ち上がろうとした時、突如目眩がしバランスを崩してしまった。倒れる!と思い目を瞑ったが、倒れることはなかった。何か温かいものに受け止められたような……とにかく心地が良い。

「…あの…大丈夫ですか?」

その声にハッとして目を開けるとそこには昨日の抹茶プリンの人…ヨハンさんがいた。しかも近い…どうやらヨハンさんに抱き留められたようだった。

「うわわっ!すすすみません?!いつからここに!?じゃなくていらっしゃいませ!!」

入店のチャイムに気づかない程どうやら眠かったらしい。だが、今は恥ずかしさで眠気なんて微塵も感じない。ワタワタする俺を見てくすりと笑った。

「そんなに慌てなくても……」

「本当にすみませんでした!!」

「いえいえ、それより体調が悪いなら少し休んだ方がいいと思いますよ」

「あ……体調は悪くないんです……ただ、眠気が…」

「ああ……この時間はちょうど眠くなりますもんね。俺もこんな時間まで仕事なので、よく眠くなります」

苦笑しながらヨハンさんは言う。そして眠くなった時は筋トレをしてみたりドリンク剤を飲むのだと言って、棚から眠気を抑える栄養ドリンクをとった。
そしてカゴの中に入れる。

「店員さんにもオススメですよ。本当に眠気が無くなるから」

「じゃあ今度試してみますね」

次はサンドイッチコーナーでサンドイッチをとり、昨日と同じようにデザートの前に立った。

「えっと……昨日言ってたデザートって、もうないですよね…?」

「あー……もうないですね。次に出すのは6時頃なんで…」

「黒蜜の…食べたかったな……」

しゅん、と悲しそうにするその人に一瞬犬耳が生えた気がした。
眠気で幻覚でも見たのだろう。ただの外国人のサラリーマンを可愛いだなんて……そんなこと…そんなこと思ってない!


「あの、もし良ければ取置きしておきましょうか…?」

「へ?」

「俺、明日の22時から勤務なんです。その時間ならまだ残っているでしょうし、取っておきますよ」

「じゃあ明日のこの時間にまた来るのでお願いします!」

取置きを引き受けた俺は、制服のポケットからボールペンを取り出して、取置きメモをとった。


結局今日のデザートは昨日悩んで諦めたロールケーキにしたらしい。いつものように会計をしていく。

そしてヨハンさんは支払い終えた後、購入したものが入っている袋の中から先ほどの栄養ドリンクを出すと、俺の手に持たせた。

「これ飲んで頑張ってくださいね」

そう言ってにっこりと笑いながら。



「あ……ありがとう…ございます」

「んっ、じゃあまた明日!」

店から出ていくヨハンさんを見送るとドキドキと鼓動を早めた胸に手をやった。
この胸の鼓動は何なんだろう…。



バイトを終えアパートに帰ると急激に眠気に襲われたので風呂は起きてから入ることにした。


相変わらず目が覚めたのは15時を過ぎた頃であり、風呂に入った後いつも通りに弁当を食べ、身の回りの世話をしバイトに向かった。

取り置きを頼まれていた黒蜜プリンを昨日のお礼にプレゼントしようと黒蜜プリンを会計をしバイトに入ることにした。

3時頃になりもうすぐヨハンさんに会えると思うと何だかドキドキする。そうだ、黒蜜プリンは俺が来た頃には既に売り切れてたと言ってみてしゅんとしたところで渡そうか…そんなことを考えていると来店を知らせるチャイムがなった。ヨハンさんではなく中年の男だった。
その男はカップラーメンを一つ会計するとカウンターの横にあるポットでお湯を入れはじめた。

「あちっ!?」

どうやらお湯をこぼしたらしいので大丈夫ですか?と声をかけようとした時、男はカウンターをドンッ!と叩いた。

「この店のポットはどうなってるんだ!?火傷したんだが!?」

そう怒鳴りつけてきた男に対しそれはあんたのミスだろ!と思いつつとりあえずすみませんと言っておいた。

「すみませんじゃないよ、慰謝料払えよ、慰謝料!」

「俺が……ですか?」

「他に誰がいるんだ!君のミスで俺は火傷をしたんだから当然だろ!!慰謝料10万だ!!」

何が俺のミスであり何故10万も払わないといけないのかわからない、わかることはこの男はクレーマーということだ。しかも悪質な…。

「どうせ金ないんだろう?なら……身体で払わせてやるよ!!」

「は!?何いって……」

ガンッと男はカウンターを乗り越え俺にのしかかってきた。



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