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ふわぁ、と大きくあくびをしながら店内の掃除をする。
フリーターである俺はコンビニで深夜にアルバイトをしていた。
夜の10時から朝の6時まで。8時間の勤務時間のうち、深夜3時頃が一番眠くなる。
1時頃までは客が来て忙しいが、この時間だとそんなに忙しくなくなってくる。要するに、暇になって眠くなってくるのだ。
掃除も終えて、陳列棚の整理をしていると来客を告げるチャイムが鳴った。
客を見れば残業か何かで帰るのが遅くなったんだろうか……スーツを着たサラリーマンだった。髪の色は青みがかった緑のような色をしていて少々目立つ。
いらっしゃいませー、と声をかけてから再び整理をし始めた。
客であるその人は牛乳と食パンを取るとデザートコーナーで悩み始めた。この時間にはデザートはかなり売れてしまっているから選択肢は少ないはずだが。
抹茶プリンをとって戻し、ロールケーキをとって戻す。そして少し悩むとロールケーキを手にとった。だがそれも再び戻してしまう。
その様子が何だか面白い。見る限りかっこいい……いわゆるイケメンと呼ばれるような人が真剣にデザートで悩んでいるのだ。
しばらくして、決まったのかレジへと向かったので俺も慌ててレジへと向かう。
『遊城』と書かれた名札のバーコードを読みとってから商品のバーコードを読みとっていく。そしてデザートは
「悩んでたみたいだけど、抹茶プリンにしたんですね〜」
「あ……はい。抹茶、好きなんです」
「今、新商品で黒蜜をかけるタイプのが出てるんですよ。今は売れちゃって無いんですけど……そっちも美味しいですよ」
「へぇ!じゃあ今度試してみます」
キラキラと目を輝かせたその人の瞳は翡翠色で、外国人なんだとようやく分かった。「…えっと、お会計は…?」
キラキラするその瞳に目を奪われていた俺はハッとし慌てて持ったままだった抹茶プリンのバーコードにスキャナを当てた。
「436円です。」
「436……436…あっ、6円ないな…じゃあこれで」
440円を受け取ると4円をサラリーマンの人に返す。
「どうも!次は黒蜜とやらを買いにくるよ!」
「あっ、はい!ありがとうございました!」
サラリーマンの人が店から出るとまた店内は静まりかえった。実際有線が流れているので無音というわけではないのだが。
「ふぁ…深夜は暇だなぁ…んっ、なんだこれ…」
カウンターの外に何か紙が落ちているのが目に入った。それを拾い上げた瞬間、来客を告げるチャイムが鳴ったので反射的に紙をズボンのポケットに突っ込んでカウンターの中に戻った。
結局その後は10人前後の来客があり6時のバイト終了時刻を迎えた。
「ふぃー…疲れたぁ…」
アパートの自分の部屋に帰ると布団にダイブした。
「……寝ちゃいたいけど…風呂入らないとな…」
布団からノロノロと立ち上がり脱衣所に向かう。
脱衣所でズボンを脱ごうとした時、ポケットに違和感を感じた。ポケットの中に手を突っ込むと何やら紙が入っていた。
「……フリルコーポレーション…ヨハン・アンデルセン…?何だこりゃ…こんな人知らないぞ…」
うーん…と考え記憶の糸を手繰り寄せるとあっ!と閃いた。そういえばバイト中に何やら紙を拾ったんだった。そしてこの人物が誰かといえば一人しかいない。掃除をし終えてこの紙を拾うまでに来店した人物はあの抹茶プリンのサラリーマンだけだ。
「ヨハン・アンデルセンか…」
まぁ知ったところでどういうわけではない、と思い名刺を脱いだ服の上に置き浴槽へと向かった。
風呂からあがって改めて布団にもぐり込むと、睡魔が再び俺の元へやってきた。
やっぱり深夜に働くのは大変だ。もちろんその分しっかり時給はいいけど。
しかしいつまでもこうしてフリーターをしてるわけにはいかないだろう。
ふと、先程の名刺を思い出した。フリルコーポレーションは大企業ではないものの、それなりに有名な会社だ。
俺もいつかあのヨハンって人みたいにスーツを着る日が来るのかなぁ……と思って想像してみるけど全然思い浮かばなかった。
……今は毎日生活していくだけで精一杯だ。もう考えるのはやめよう…。
目を閉じると直ぐに意識は途絶えた。
次に目が覚めた時には午後の3時になっていた。
今夜も10時からバイトだ。
だるい身体を起こしてのろのろと家事をこなす。食事は仕事先でもらった廃棄の弁当だ。
冷蔵庫にしまっておいたそれを電子レンジで温めてから食べる。
料理は出来るけど、1人暮らしだと面倒くさくていつも適当に済ませてしまう。
洗濯をして、軽く掃除をして……とやっているとあっという間に夜で、出掛ける時間になってしまう。
バイト先に行くと、10時までのアルバイトたちが帰る支度をしていた。お疲れさまですーと声を掛けながらバックルームで制服に着替える。
店に出ると0時まで勤務の剣山がレジをしていた。[ 12/18 ][*prev] [next#]
[mokuji]