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「とりあえず安全な場所にいるならいい…そこでおとなしくしていろ、後で迎えに行く……それでは……」

こんな状態では俺が下手に動くことは得策ではない思ったのか覇王はそう言って電話を切ろうとした。

「……待って…俺も病院に行く!!」

「……大丈夫なのか?」

「うん…ヨハンが怪我したのに知らんぷりできないぜ…」

そうかと答え覇王は搬送された病院を教えてくれた。
そこは市民病院でここからなら走れば10分程度で着く距離だった。
俺はハンガーにかかったまだ湿っている自分の服に着替えると病院に向かって走り出した。雨はまだ降り止まないが、傘なんてさす余裕はない。



病院の入り口に着くとそこに覇王が待っていた。

「覇王!ヨハンは?」

「こちらだ……」

くるりと踵を返した覇王に俺も早足で続いた。普段なら気になる病院独特のにおいも今日は気にならない。
覇王についていくと突然ピタリ止まり俺の方を見る。どうやらこの部屋にヨハンはいるらしい。そっとドアを開けるとベッドに横になるヨハンとベッドの横の椅子に座るユベルさんが目に入った。
失礼しますと入るとユベルさんは俺に驚いたのか目をぱちくりさせた。

「君は……さっきの」

驚いた顔をしたユベルさんだったが、すぐに顔は変わった。じっとりとした目で俺を見る。

「何しに来たの」

「……ヨハンに、謝りに…」

「謝る?……話は君のお兄さんから聞いたよ。いきなり怒りだした君を追いかけようとしてヨハンは事故にあったんだってね。一歩間違えば死んでたかもしれないんだよ。謝って済む問題だと思ってる?もしヨハンが死んでたら君はどうするつもりだったの?」

「…………」

「……やめろよ兄貴…」


ベッドで横になっていたヨハンがこちらを見てボソリと言った。


「ヨハン……!でもヨハンがこの子を追い掛けなければ……」

「追いかけたのは俺が勝手にしたことだし、いきなり道路に飛び出した俺が悪い。悪いのは俺だけ……十代は悪くないよ」

「……ヨハン…」

「ごめん、十代と話がしたいんだ。二人きりにしてくれないか」

ヨハンがそう言うと渋々と言った感じでユベルさんと覇王が病室から出ていった。
ヨハンと二人きりになってどうしたらいいか分からなくなる。ヨハンが手招きをしてきたので近づくと、指で椅子を指された。どうやら座れということらしいので素直に座った。


「ごめんな、十代。びっくりさせて」

「ううん………」

「兄貴が言ったことは気にしないでくれ。俺以外に家族がいないから……ちょっと過保護なんだ」


苦笑しながらヨハンが言う。頭に包帯が巻かれ、綺麗な顔にはたくさんガーゼが貼られているので、その姿は痛々しかった。
……もしたった1人の家族がこんな風になったら。冷静にはなれないだろう。


「しっかし……自業自得だなぁ」

「えっ」

「この事故は俺の自業自得だなって」

あははとヨハンは笑うが全然笑えないし意味もわからない。それに、

「…俺が…俺が悪いんだ…ヨハンはなにも悪くない!!だから…」

「俺が前に図書館を好きになるにはまず司書を好きになれっていったこと覚えてるか?」

ごめんと言おうとしたがヨハンの言葉に遮られた。寸止めされた言葉はズルリとどこかに落ちていった。

「…覚えてない…かな?」

不安そうに尋ねてきたので慌て覚えてるよと答えるとヨハンはよかったと微笑んだ。

「でも……それ嘘なんだ」

「う…そ?」

覚えてるかときいといて嘘とはどういうことなんだろう。

「………そのさ…図書館が嫌いだと…そこで働く人にも好感持てないかなって」

確かにそうだ。図書館は堅苦しいイメージがあって司書の人も堅苦しいイメージがあったので苦手意識があった。

「だから…その…まず…そういうイメージから変えて欲しくてさ…そうしたら俺のことも好きになってくれるかなって」

「えっ…」

何を言っているのか頭で整理ができない。だけど胸の鼓動が少し早くなる。

「だから!!…好きになって欲しいのは図書館じゃなくて…俺のことなんだ…だって…十代のこと……好きだから…」

その言葉に俺の胸は弾けそうになった。言葉が出ずただただ赤くなるしかない俺にヨハンは

「……一目惚れってやつなんだ…でもいきなり惚れましたじゃ引かれると思った。だから…嘘をついたんだ」

俺をじっと見つめて言った言葉に俺の心臓はすでに破裂しそうに鼓動を忙しくしていた。

「でも…自分が傷つくのを恐れたせいで…十代を傷つけてしまったみたいで……引かれてもいいからちゃんというべきだったな…」

俺から視線を外すと申し訳なさそうに俯くともう一度ごめんなと呟いた。




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