Courage which steps forward one step.
こんなに不機嫌そうな隆文は初めて見たかもしれない。
息を詰めて見上げた隆文は、腕を組んでいることも相俟ってなんだかちょっと偉そうだ。
でも、そんなのは一瞬と言っていいほどちょっとのことで、隆文は大袈裟に溜め息をついて呆れたように言った。
「…お前さー俺に報告くらいしろよな。」
「え、えと…?」
「何年幼馴染みやってると思ってんだ。彼氏出来たなら教えてくれたっていいんじゃねぇーの?」
「な、何のこ…」
「青空と付き合ってんだろ?」
微々たる変化だったけれど、隆文は声を震わせて眉を顰めた。
胸が苦しくなって、きゅーって痛くなる。
違うよ、って言いたくても声にならなかった。喉がカラカラだ。
「もっと早く言ってくれりゃあ良かったのによ。」
「ち、ちが…」
「何が違うんだよ。今日はこの事を話すために呼んだんだろ?」
「私、そんなの知らないよ…?」
「…青空から呼ばれたんだよ。」
颯斗を見れば、にっこりと笑われる。
こいつ…ほんと何がしたいんだ。
いつものようにふざけた調子のはずなのに、隆文の声は真剣……というか、暗くて重くて。
隆文相手に何をそんなに緊張しているのかわからないけど、声が全然出なくて。
違う。違うんだよ。
そう、心の中で言っても隆文には伝わらないのはわかってるのに、なんでこんなに必死になってるんだろうか。
クラスメートから言われたときは、そこまで気に止めてなかったのに。幼馴染みだから?
それは、少し違う気がした。
「……じゃ、もういいだろ。俺は行くぞ。」
「……あ、ま、待って!」
踵をくるりと返した隆文の手を掴む。
「…安心しろ。お前たちの邪魔はしねぇから。」
「ち、違う!そうじゃなくてさ!!」
「んじゃあ、なんだよ…?」
「えっと、…」
胸がドキドキして、隆文の顔が見れない。
「隆文は勘違いしてて……私は、颯斗じゃなくて…えと…」
「んだぁ?お前らしくねぇ。」
「…、好きなんだよ、たっ隆文が!!……だから、颯斗とは付き合ってないし、フリーだし…ええと、その…つまり、颯斗とはただの友達同士ってだけで…」
そう、言ってみてはっと気づいた。私、隆文が好きだったんだ。
だから、勘違いしている事を言いたくて、隆文が夜久さんと話してることが嫌で、会えなくて辛かったんだなんて。
どうして今まで気づかなかったんだろう。
押し黙る隆文をまだ見られなくて、恥ずかしくて、後ろに居るだろう颯斗に目を向けても彼の姿はなかった。
…いつの間に居なくなったんだ。
「…それは、本当なのか?」
そう言う隆文の声は少し震えていて。
怒ってるのかもしれないと思ったのだけれど、恐る恐るほんとだよ、と言った瞬間に抱きしめられたときはどうしようかと思った。
「たたたた隆文!?」
「はー……んだよ。嫉妬とかバカか俺。そうだよな、好きな女の言うことも信じられねぇでどうすんだ。」
「え?…どういうこと…?」
「俺も、名前が好きだ。……あーまじ、情けねぇ。」
頭に手を回されて、更に密着する。
心臓が破裂しそうなんだけど。
「…青空だな。こんな趣味の悪ぃこと仕掛けたのは。」
「あ、でも…颯斗に相談したのは私だし…」
「…お前もか。俺も相談つーもんをだな、青空にしたんだよ。そしたらよ、押して駄目なら引いてみろと言いやがった。俺にはそう言っておいて、自分はお前と仲良くしてるからよ…すごくムカついた。」
「うわあ…そうだったんだ。」
「後で締める。」
「…とか言って結局できないんだよ。隆文やさしいから。」
少し体を放して、笑いあって。
こういうのが、幸せなんだって思った。
踏み出した先の幸せ。(これが私たちの終着点。)─*─*─*─
実のところ、思いは伝わらず仕舞いで終わらせる気でした。←
でも、いくら切ないの好きだからってそれはないなと思い、こんな形に。
颯斗くんがこうしたのは、積もりに積もった日々の仕返しとか言ってみるw