鬱々とした抹茶色。





私と誉が許嫁だというのは、幼い頃から両親から言い聞かせられていたことで、物心つく前から言われてきたことだから、これは仕方のないことなのだと気づいてはいたけれど。親に敷かれたレールをただひたすらに歩むのは思春期真っ只中の私にとって癪なことでしかなかった。
第一、私は誉を好いていない。…いやそれには少し語弊があるか。私は誉が苦手なのだ、と言った方が正しい。

私の家も彼の家も茶道の家元。
同い年である私達は必然的に比較の対象になってしまう。袱紗(ふくさ)捌きも御点前も何もかも。
合同稽古のとき私は努めてミスの無いように用心して用心してやっと完遂したものだが、彼は息をするのと等しく易々とこなした。
醜い嫉妬だとは分かっていたけれど、気に食わなかったのは気に食わなかったのだ。仕様がないと思う。
今思い返してみると、いつもにこにことしていたのも気に食わなく思っていた気がする。

…確かに幼い頃は仲も好かった。
しかしそれは、まだ比較されていなかったからだ。
比較されるようになってからは誉と会うのが嫌で、私は自然と誉を避けるようになっていった。(彼は自分が避けられているなんて思いもしていなかっただろう。)

けれど何の因果か―実際は仕組まれていたことであったが―私と誉はめでたく同じ高校に進学。
幼い頃からの流れで来ている誉はどうだか知らないが、私は嫌だった。また、比較されるのではないか。また私は誉に敵わないのだろうかと。

…おそらくの域を出ないが私はきっと対等に成りたかったのだ。いつもいつも微笑みを浮かべ先行く誉と。今ならわかる。
でも、意気地無しな私は努力する前に諦めた。定期テストも中の上をキープして誉と争わず、部活も別にして、毎年二回ある合同稽古の日は適当な理由をつけてサボるようにしていた。離れるように、近づかないようにしたのだ。

ここまでくるとさすがの誉も感づいたようで会う度に、前のように何故接してくれないのか、ということを聞いてくるようになった。

そもそも、誉は私のことを好いていたのか。答えは否だろう。
誉だって許嫁なんて縛りなどない普通の恋がしたいと思うはずだ。
私を好くはずがない。
私は彼が苦手だし、普通の恋愛をしたい。
ほら。万事オッケーでしょう?

なのになぜ、彼は私に固執するのか。訳がわからなかった。



「ねぇ名前!なんで僕のことを無視するの!?」


「無視はしてないよ。避けてるの。」


「似たようなものじゃないか。……許嫁同士なのに、なぜ避けるんだい?」


「許嫁だからだよ。誉。」


「………、名前は僕のこと嫌いになったの?」



日も暮れて、夏の暑さが爽やかになり始めたからといっても外に出るのは間違いだったか。
すごく焦った表情を浮かべる誉と出くわしてしまった。サイアク。

何を寂しそうな顔してるの誉。
と言えば、綺麗な顔を歪めて影を落とす。
私達、元からそんなに仲良くしてた?
と問えば、治りかけた傷口を傷つけられたような顔をする。


私はどうして誉がそういう表情をするのか、皆目見当がつかなかった。




─*─*─*─


おそろしく名前変換がないな…

続き物にしたい4710です。



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