彼女の日常僕の日常





残り一ヶ月を過ぎた今日この頃。
お腹の少し上、胸より少し下がきゅうっとホイップクリームを絞り出す時みたいに締め付けられるようになった。

何故だろうか。

理由はわからないけれど、もしあるとしたらそれはきっと名前のせいだ。

………いや、そうに違いない。
理由は彼女にある。



第一に、名前は自分が思っていたよりもずっと強かった。

それは放課後二人で会うようになってから気づいたことで、いつも来る時間よりも遅いななんて思いながら屋上庭園で待っていると、顔も服もぐしゃぐしゃにした彼女が来て。
出会った頃は嘘だったんじゃないかって思うほど、女の子らしくなった(僕の前では約束なのだけれど)彼女はそんな姿でさえ、「ごめんね。遅れちゃった。」なんて笑うんだ。
何をして来たのかなんて知ってる。月子ちゃん関係の喧嘩だ。彼女たちは中学の時からの幼馴染み同士で、家が空手道場だった名前は自然な流れで月子ちゃんを守るようになったらしい。
でも、知っているからって僕には何もできない。だから、その日は抱き締めるしかできなかったんだ。


第二に、すごく名前は可愛くなった。

これは本当にごくごく最近気づいたこと。

いつの間にか彼女のベリーショートだった髪はショートボブになっていて、家庭の事情で着ていた男子制服は女子制服になっていた。


「……なに?お家事情はもういいの?」



って、何度目かのお昼の時に聞いてみると。



「父上に言われたことをちゃんとできたから、もう女の子として過ごしていいんだ。」



と、晴れやかな笑顔で言われたのを覚えている。

女の子らしくなった名前の笑顔は今まで見てきた笑顔なんかよりも可愛くて、なぜだか顔が火照った。


思い返してみたら締め付けられるような甘い痛みの理由は山のようにあって、これじゃあ僕が名前に恋してるみたいじゃないか、なんて自嘲も放課後の鐘と共に掻き消された。



「ぼーっとしてどうしたの?郁。」


「別に…あと少しでこの関係も終わりなんだなあって思っていただけだよ。」


「……思っていたよりも楽しかったよ。恋人ってこんな感じなのかなって知れて。」



肌寒い屋上で身を寄せ、指を絡めながら言うには彼女の言葉は辛辣だった。

ちくり、と痛む心に
どうも僕は嘘を吐くのが苦手になったのだと思わざるを得なかった。



ぼく。恋しちゃったんだ。


─*─*─*─


郁ちゃん好きなんだけどうまくいかない…




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