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「は〜ぁ…」
私、井上織姫は溜息をついていた。
私がここ、虚夜宮に軟禁されてから早1年。今日も今日とて特にすることもなく、暇を持て余していた。
「……そっか、もう1年も経ったのかぁ〜…。」
最近、自分の頭の中には、ある1つの願望が浮かび上がっていた。しかしそれが、この虚圏という場所では到底叶うことのない望みだと思うと、なんだかしょんぼりしてしまう。
「…はぁ……」
そう思うとなんだか妙に悲しくなってしまい、織姫は白いソファにダイブした。
「………ぅぅ…、……食〜べた〜いなー……」
「何をだ」
「ふぇっ!!!?」
慌てて頭を上げると、そこには何やら珍獣でも見るかのような目で見下ろしてくる、ウルキオラの姿が。いつの間にか彼は、この部屋に入って来ていたのだ。しかも、隣に…;。
「…の、ノックして下さいって、いつも言ってるじゃないですか……//」
「女。一体何を食べたいんだ?」
私の発言には答えず、彼は質問した。
「え?……ぇ、えっ……………と……………///」
「なんだ。はっきり言え。」
「いやいや!!な、なんでもな……」
「言え。」
「………;;;」
…ここまで問い詰められたら、もう言うしかない。私は意を決して口を開いた。
「………こっ、 こつぶっこ!!!!! ……です///」
「…………………。 …なんだ、それは?」
あぁ、やっぱり虚圏にこつぶっこは無いんだ…。改めてそう確信(当たり前)した私は、ウルキオラに説明した。
「こ、こつぶっこというのはですね…、…なんと言いますか、その、に、人間の、お菓子…なんです……。」
「わ、私、そのお菓子が大好きでっ!!人間界に住んでた時に、よく食べてたって言うか……///」
「…………………。」
ウルキオラは何も言わず、私が身ぶり手ぶりわたわたと説明しているのを、ただじっと見つめていた。
「………す、すみません、不謹慎ですよね、私…;;。こんな時に、な、何言ってるんだか……… 「…買ってくる。」
……ウルキオラはサッと身を翻すと、扉に向かって歩き出した。
「えぇ!!?あ、あの、ちょっ…///!!に、人間界にしか無いんですよ!!?どうやって……」
「心配はいらん」
なんか恥ずかしくなって、俯きながらぽそりと呟くように言う。
「…………じ、じゃお言葉に甘えて…/////。…あ!!あ、で、でも盗んだりしないで下さいね!!?」
扉を閉める直前、ウルキオラが一度だけこちらを向く。
「…だから、『買ってくる』と言っただろうが。」
バタン、と無機質な音と共に扉は閉まり、ウルキオラの去っていく足音が僅かに聞こえ、そして消えた。
カッ カッ カッ………
「………」
自分から頼んだくせに、なんだか今更なのだが、物凄い不安が残った。
「…ウルキオラ、大丈夫……かな?」
―――――――――――――所変わって、人間界。
義骸にちゃんと入って、勿論しっかりと人間の服を着たウルキオラは、人気の無いところに黒腔を開き、静かに地に足をおろした。
「全く…溜息までついて何かと思えば……、そこまでして焦がれている菓子…だと?」
今までに、藍染様が茶会を催されるときに出る茶菓を食したことはあった。が、恋しくなる程美味だと感じたことはなかった。
「やはりあの女は人間だな。我々破面とは考えることが違う。」
そんなことを1人ごちながら、ウルキオラは“こつぶっこ”とやらを入手するために歩き出した。
―――――――…夕刻。
ウルキオラはやっと入手した“こつぶっこ”を両手の袋に大量に提げ、人差し指で静かに黒腔を開いた。
パキン
ズズズズズズズ……………
黒腔の中に足を踏み入れながら、ウルキオラは考えた。
「……………なぜこんなものを食すんだ?」
一袋取り出し外装を見れば、“こつぶっこ”とやらを写した写真が大きく印刷されていた。
「一体なんなんだこれは?小さな粒の固まりか?」
そういえば、藍染様が抹茶の茶菓として時々出される“金平糖”という物に少し形が似ている、…ような気がする。
「…まあ良い。何はともあれ手に入れたんだ。早くあの女に渡そう。」
そう思い、霊子を足元に固めながら、虚夜宮へと歩を進めた。
―――――――コンコン
「女。持って来たぞ」
重い扉を開けば、そこには駆け寄ってくる女の姿が。
「あ、っお、お帰りなさい、ウルキオラ!!………ちゃんと買えたの?」
「…ああ。問題ない。」
…陳列棚の迷路をウロウロとさ迷い歩き、店員に不審に思われて声をかけられたことは黙っておこう。
「!!!わ、こ、こんなに!?」
「食物は多いに越したことはないだろう。」
「!……あ、有難うございます///」
そう言って女は頬を僅かに紅に染めた。
するとそれをごまかすように女はくるりと後ろを向き、とたとたと歩いて袋を机に置くと、椅子に座って1つだけ袋を開いた。
そしてポリポリと、少し恥ずかしげに食べ始めた。
…幸せそうな顔だ。
こんな女の明るい顔は、初めて見たかも知れない。
時折、「ウルキオラも食べますかー?」なんて笑顔で言いながら、無邪気に一粒ずつ食べていく。
……まぁ、苦労した甲斐はあったか…。
……存外、見ていて悪い気はしないな。
……ーー柄にもなくそんなことを思いながら、俺は静かに女を見つめていた。
fin
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