「ふあ!?」
ガクンと身体が階段から落ちるような感覚に思わず可笑しな悲鳴を上げ飛び起きた。急に起きたせいか視界がぐらつく、目に見えたのは織姫の自宅、見慣れたカーテンとテレビ、クッションと化粧台に、ぼやけた頭が少し震えるとあれれと首を傾げた。今自分はベッドに入っている、ということは今まで眠っていて夢を見ていたのだと漸く状況を理解した。夢からの目覚めに織姫は頭から足の爪先までの緊張が解けると短いため息を吐き出した。
「夢か〜」
「起きたのか」
えっ、と声のした方に目を向けるとそこにはつい先程まで自分を押し倒し迫っていたウルキオラが静観するようにじっと織姫を見ていた。同じベッドに入っているという状況に一瞬だけ夢と現実が交錯した。
「あっ・・・そっか」
自分の家にウルキオラがいる、暫く驚きに固まっていたが自分が自宅に招いて、しかも泊まっていいと了承していたのを思い出した。そして先程まで見ていた夢の断片が頭にまだ残っている。将来もしかしたらああなるのかなと考えただけでくすぐったさに笑いが込み上げる。
「どうした?」
「ふふっ、あたしさっきまで夢を見てたんです」
「あたしとウルキオラさんは夫婦で、あたし達の間に男の子がいるんです!!それがとっても可愛くてムルシーちゃんって呼んでたんですけど、あっウルキオラさんなんだか優しい感じでしたよ!笑うんですよ、優しく笑うんですウルキオラさんが」
殆ど起きた拍子に飛んでしまったが、僅かに記憶が残っている部分を忘れてしまう前に言葉にしていくとウルキオラはそれを静かに耳を傾けていた。
「成る程、それで睡眠を貪っている間幾度もニヤけていたというわけか」
「うそ!?」
「そんなに可愛かったのか」
どのくらい寝顔を見られていたのか気にはなったがウルキオラの口から可愛いという言葉にちょっとだけ織姫は驚くと頭の中におぼろ気に浮かび上がった夢の中の息子を描き出すと、うんと強く頷いた。
「はい!また見れたら良いな〜さっきの続きはもう見れないだろうけど」
「・・・見たいのか?」
残念だなと呟いていると思案顔をしていたウルキオラがおもむろに織姫に近付いて来た。いきなりの急接近に、うわっと小さな声が織姫から上がる。
「あ・・・はい、そうですね、見れるんですか?」
「ならば協力しろ」
「え?あの、何を」
至近距離にまで近付いてきたウルキオラがそれ以上に織姫の瞳を独占していく、圧迫感を視覚的に感じながらギシッと何かを予兆するようなベッドからの鳴き声を聞いた。ゆっくりとウルキオラの唇が動きだそうとするのを何故かこの時スローモーションに映った。
「子を授かるには方法は限られているだろう、その中で今出来ることをするつもりだ」
「あっ・・・嫌な予感」
唇が触れ合うんじゃないだろうか、実際にはそれほどの距離にはいないはずなのだが、心理的からするとそれはズバリだ、織姫にはそう感じずにはいられなかった。
「今から俺達はまぐわうということだ、俗にセック」
「わー!!!わー!!!違います違います!!あたしはただそんな現実的なことではなくてですね」
「よく動く唇だ」
「んっ・・・!?」
ウルキオラのキスは巧妙なものから繊細なもの、そして激しいものと実に多才である。最初はただ重ねるだけの軽いものから次第に唇を割り、閉じられた歯並びの奥に隠れている織姫の舌を求めて周囲を焦らすように愛撫していく、力ずくではなくあくまで相手自身が瓦解していくのだ。舌先に翻弄されていく内に織姫は途中自分から口を開いていることに気付いていたが知らぬふりでウルキオラをそのまま受け入れた。そして互いの熱にやっと触れ合えた瞬間、喜びにヒクリと喉を震わせた。
「ふぁ・・・はっ、はあ・・・この、方法じゃ、今すぐ、はっ・・・会えないじゃ、ないです、か」
「嫌か?」
「う・・・何かこの展開どこかであったような?」
優しくしてくださいね、小さく呟くセリフにどこかで言ったことがあるような気がして首を傾げつつも、近付いてくる愛する存在に織姫はいつの日か会えるだろう自分のおませな息子を思い描きながらそっと自分の視界を静かに閉じていった。
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