ふたり暮らし*1
あんたは騙されやすいんだから注意しなさいよ。都会なんて何があるかわかんないんだから。
と家族に上京の時に何度も言い聞かせられたのを今でも覚えている。でもこっちで知り合った人には良くして貰ってるし、一人暮らしは不安だけれど何とかやりくりは出来ている。これからもそんな日常が続くんだ、ってそう信じて疑わなかった。
今この時を迎えるまでは。
目の前にはパーカーのフードを目深に被った男が一人。電柱に背中を預けてこちらを凝視しているのが見える。
うぅ…やっぱり普段通らない路地なんか通るんじゃなかった!そんなことを考えていると目の前の男が俺の方に向かって歩いてきているのが見える。
「…まぁ、この際誰でも良いか。腹減ったし。」
ぼそりとこちらに聞こえるように呟いた男の目は薄ら赤く光を帯びている。一瞬見間違いだと思ったけれど、顔の輪郭やら造形ははっきりしないのに目だけが爛々と光っているのが分かる。
「え?」
怖い。怖い。怖い!
暗闇で人間の目が光るなんて聞いたことない!逃げようとしたけれど、あっと言う間に距離を詰められてぐっと肩を掴まれる。
逃げられない。
「じゃ、いただきます」
間近に迫る男の顔。次の瞬間にはずずずっと何か、そう。汁物を啜るときのような音が俺の首筋から聞こえていた。
「うん、ゴチソウサマ。」
「……!あ、あの…あのっ!一体何なんですか!?いきなり何するんですか?」
男が首筋から口を離した瞬間肩に置かれた手を振り切って大きく後ろに飛び退く。それとなく首筋に手を当ててみるとぬるりとした感覚。…間違い無い血が出てる。
もしかして、もしかして!俺はとんでも無いことに巻き込まれていたりするんだろうか?
「何って…飯?」
「飯!?」
「男にしちゃ味は悪くなかったし。うーん。しばらくお世話になるかなー。」
「お世話って…え?」
ぺろりと自分口の端に付いた血を舐めとって薄く男は笑った。
「俺、達海猛。吸血鬼やってます。よろしく」
2010/7/8/thu