赤崎と椿
「ザキさん、おはようございます」
すん、と目の前にいるあいつの匂いを嗅ぐとあぁまただと思う。
此所の所あいつにはあまり嗅いだことのない嫌な香りが纏わりついている。
こっちの気も知らないでにこにことこちらを見て来る椿の奴の頭を軽く小突いて軽く舌打ちをした。
「おっせえんだよ。先行くぞ!」
「え、あ、ザキさん!待って下さい!」
背中から聞こえる椿の声を無視する形で俺は足を先に進める。恐らく俺の事を全速力で追って来ているであろう椿には直ぐに追いつかれてしまうだろう。
「待たねえ!」
椿に纏わりついている匂いは嗅いでいるだけでイライラする。特に、俺の様に鼻が利く奴はそうだろう。
…そりゃそうだ。あいつに纏わりついているのは蝙蝠の獣臭さと血の入り交じった…要するに吸血鬼の香りだ。
人の良い椿のことだ。どうせどっかで血でも吸われたに違いない。
「ザキさんたら…もう、追いつきましたからね!」
俺のTシャツの裾を掴む椿の息は軽く上がっている。そんな椿の首筋。もっと具体的に言えば右の鎖骨付近。
見つけた。
吸血された痕だ。
「……ザキさん?」
そうだ、間違ない。
この吸血痕から濃い獣の香りがする。
「…なんでもねえよ」
怪訝そうに見つめる椿の視線から逃げる様に、再度俺は早足で歩き出した。
2010/7/20/tue