小話 | ナノ
持椿だったもの

2010/07/13 01:03





その瞳で見つめられてその口が言葉を紡ぐのを見てしまった瞬間、もう俺はこの人からは逃げられないのだと悟った。

「この首に首輪でもつけてあげようか?」

持田さんからくすりと小さく笑い声が漏れる。その唇から次の言葉が飛び出そうとしていた。

「ねぇ、犬みたいな椿君にはきっとお似合いだよね」

つつつ、と持田さんの人差し指が俺の首筋をなぞる。くすぐったさに思わず身をよじると持田さんの瞳がすっと細められるのが見えた。

「それに首輪をつければ逃げたくても逃げられないだろ」
「…そんなの」

意味、ないですよ?


だってさっき悟ってしまったから。あの瞳を見た瞬間、いつかはこの人に捕まってしまうのだろうと分かってしまったから。

だから、首輪なんて意味ないんです。

 

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