好奇心は猫を殺す1


<仁科×志賀> 一年の春休み・初H話





仁科が生徒会の役員になったのを機に特別棟への移動が決まったので、あいつの親衛隊に混じって俺も寮部屋の引越しを手伝った。
結構な人数がいたからわりとスムーズに引越しは終わり、すぐに解散になる。
自室に戻って汗を流したあと、メールが来ていることに気付いた。新着を開いてみると仁科からだった。
内容は『俺の部屋でお別れ会しよー』というもので俺は二つ返事でOKした。
てっきり親衛隊のヤツらとわいわいやるのかと思っていたら、待っていたのは部屋着に着替えた仁科一人だった。

一人部屋は広くて、荷物ももう片付けられていた。ダンボールの跡形もない。
仁科が高級そうなソファーに座って俺を手招きする。

「あれ、他のヤツらは?」
「え〜志賀ちゃんしか誘ってないけど?」
「ふーん、そうなんだ」
「うん。だって今日で最後なの寂しーから。二人でお別れ会しよぉ」

その言葉に照れ臭く思いながらも、この一年のことを思い出してそれもいいか、と承諾した。
俺の部屋にあったスナック菓子や『つるたや』で買ってきた軽い食い物を差し出しガラステーブルに置くと、仁科は冷蔵庫からチューハイや発泡酒を取り出してきた。

「うわっ、お前それどっから手に入れたんだよ」
「んふふ内緒。ほんとはビール飲みたかったんだけどダメでさぁ。まあこれでもいーかなって。志賀ちゃん飲める〜?」
「飲む飲む!」

寮生活で酒なんて絶対に飲めないから、仁科に感謝した。
実家に帰省したらこっそり父さんや兄ちゃんの酒をわけてもらったりしたこともあった。
けれどこうやって同年代で飲むっていうのは初めての経験だから、スリリングで飲む前から気分が高揚した。

プルタブを開けるとプシュ、と空気が抜ける音がする。
そのまま飲むつもりだったが仁科が青い切子グラスを用意してきたので、そこに注いだ。しゅわしゅわと泡が弾ける炭酸の音にごくりと喉が鳴る。

苦味のあるアルコールを飲むと、自分が一段上の大人になった気がした。度数は弱いからほとんどジュースみたいなもんだけど、それでも程好い酔いは回ってきた。
仁科も慣れた様子でグラスを傾けている。酒があるならもっとつまみっぽいもの用意してくるんだったな。
酒を飲みながら仁科と話すのは、学園のこと。ちょっと気が早いけど進路のこと。そして他愛もない思い出話。

初対面では「なんだコイツ」って思ったけど――今も若干そう思ってるところはあるが、それでも一年同室でいたらある種の情は湧いていた。
一人部屋になると思うと寂しい、と思うくらいには愛着のようなものを感じている。

「……なんか変な感じだな」
「ん〜?」
「今日から一人部屋なんだなーって思うと、うん……落ち着かねーかも」

寂しい、なんて仁科みたいに正面切って言えないからそう濁すと、艶やかな笑い声が返ってきた。
そして仁科がおもむろに立ち上がり俺の隣に座った。
ああいつものアレだな、と思って俺は仁科に顔を向けて目を閉じた。どちらともなく唇が触れ合う。言葉にしなくても空気で分かる。キスをしよう、したいっていうのが。
仁科の唇はアルコールで湿っていて、一気に酔いが回った気がした。

「ん、う……」

ただの軽いキスなのに変な声が出た。仁科とのキスなんて慣れっこのはずなのにファーストキスみたいなドキドキ感があった。アルコールのせいだろうか。
酒の匂いと、自分の風呂上がりの匂いと、仁科の甘ったるい香水の匂い。それらが交じり合ってくらくらとした。
キスをしながら眩暈でふらついた体をソファーに沈められる。そうされても意識は追いついていなくて、目を開けてぼんやり仁科を見た。
唇が少し離されると、ギリギリ触れるか触れないかの至近距離で仁科の低く艶のある声が囁いてきた。それは声というより吐息のようだった。

「……志賀ちゃん、キスしてい?」
「もうしてんじゃん」

熱を持った大きい手が俺の頬を滑る。耳を指先でくすぐられて思わず笑った。
しかし仁科はそれに反するように笑顔の欠片もなくて、齧り付くように俺の唇を食んだ。急なディープキスだった。
俺のだらしなく開いた口に舌を入れられ中を蹂躙された。仁科の舌は長くて、奥に引っ込んだ俺の舌を巧みに絡め取った。

「んっ、うん、ぁ、ちょ、まっ……」

舌を擦り合わせるキスは気持ちが良くて、エロい気持ちになる。俺はこの時に――いや、仁科とキスをし始めた時点でスイッチが入ってしまっていて、それに気付かされて困惑した。
力の入らない手で仁科を押し退けたらあっさりと体が離れたことにホッとした。

「……っ、ふ、いきなりなにお前。もういいや、やめよ」
「志賀ちゃんかわいー」

え、と思う暇もなかった。仁科の手で床に敷かれたふかふかの白いラグに転がされ、上から圧し掛かられた。

「ちょ、なにお前、マジで」
「志賀ちゃん可愛いから、可愛がりたいなって」

仁科はうっすらと微笑んでいた。それがいつもの軽くて調子のいい笑みじゃなくて、なんていうか……俺はすごく怖くなった。


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