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藤崎は指先で胸をいじりながら俺の足の間に片足を割り込ませた。ぐいぐいと股間を押し上げて刺激を与えてくるやり方がやけに巧みで、焦りが増す。

「お、前……こんなところで、何……サカってんだよ」

ここは学校で、不特定多数の人間の活動する場だ。いくらこの場所にひと気がないといっても誰も来ないとは限らない。
体育倉庫なんだから運動部が顔を出す可能性はいくらでもあるんだ。

「そうだね」

のんびりと、かつあっさりと肯定されて俺は肩透かしを食らった。しかも行為を続ける手は未だ止まる気配がない。

「わかってん、なら……」
「でも、それがどうしたっていうんだよ?」
「なっ……、どうもこうもお前、こんなとこ誰かに――最悪の場合先生にでも見られた日には学校に来られなくなるぞ!家族や世間様に白い目で見られて肩身の狭い人生になるに決まってるだろ!俺はそんなのは嫌だ!」
「……なるほど」

そう言った藤崎の声音は驚くほど冷えていた。ぞく、と背筋に冷たいものが一筋流れる。

「きみは、そう考えてるんだね」

当然、だろう。そんなこと――。

「……じゃあ、ご要望にお応えして早く済ませようか」
「え……、っあ!」

かちゃかちゃと金属の擦れる音がしたかと思うと、俺のズボンがすとん、と膝まで落ちた。
ベルトで固定されていたそれが容易に脱げたことに藤崎が少し呆れている。

「皆川、また痩せたんじゃないの?」
「また……って……別に俺はダイエットなんか、して、ねえよ」
「少し、痩せすぎだよ」

人のこと言えるか。俺よりひょろいくせして。それなのに背は俺より頭半分も高くてムカつく。羨ましいくらいのモデル体型。イケメンは滅べ!
そう反論しようとしたけど、その前に藤崎が下着の上から俺の中心を握ったから思わず息を呑んだ。

「っ……!」
「ん、もう硬くなってるね……。あれだけの刺激で興奮したの?」
「ぅあ……」
「可愛い」

耳朶を甘噛みしながら藤崎の骨ばった指が下着の隙間から這入りこんで、俺のソレを直に撫でた。

「っ、あ……!」

直接的なその刺激にゾクゾクと全身が震える。藤崎の手はじっとりと汗ばんでいて、ひどく熱かった。
先端を撫でられると恥ずかしいことに先走りが早くも滲み出る。

「濡れてきた」

いちいち報告しなくていい!
こんなの、こんなのは非常に不本意だけど、相手が藤崎だろうとなんだろうとやっぱり擦られると気持ちがいい。うっとりとした吐息が思わず漏れる。

「……抵抗、しないの?」

ああ、そうだ、コイツの言う通りだ。はやく、藤崎を振り払ってついでに一発殴ってやらないと。――この前、したみたいに。
心臓がどくんと大きく脈打つ。

「痛かったよ。皆川の拳」

滑らかな頬に食い込む拳の感触を思い出し、ぎゅっと手を握りこむ。

俺を無理矢理に組み敷いた藤崎。あんなのはただの暴力だ。だから俺も暴力で返したまでのことだ。
なのにこの綺麗な顔に痣ひとつ見当たらない。もっと力を込めて殴るべきだった。

「ふじ、さき……」
「うん」

名を呼ばれたのが嬉しくて仕方ない、という風に不気味に微笑む藤崎に、戦慄した。
真夏だというのに、体の芯が氷を詰め込まれたようにより一層冷える。
藤崎はそのまま地面に跪き、俺の尻の谷間に舌を這わせた。ぬるりとしたそれが窄まりをつつき、ゆるく中を探ろうとする。

「う、う……やめ」

滑り蠢くその感触に負け、がくりと膝が折れそうになる。
気持ちが良いのでも悪いのでもなく、くすぐったいような微妙な感覚。それを与えているのが藤崎だと思うと、羞恥心に火がついた。

「藤崎……ふ……あっ……」

早く終わらせてほしい、こんな茶番は。やめてくれ、藤崎。
そう願うと、藤崎は、俺の尻から舌を離し、再び俺に背後から覆いかぶさった。

「体、楽にして」

いつの間にか藤崎の息が荒い。いつも取り澄ましているこの男が、こんな風に我を忘れたように興奮しているのだと思うと、俺は複雑な気持ちになった。
どうして、俺なんだ。どうしてそういう表情を見せる相手がよりにもよって俺なんだよ、藤崎。
相手なんか選り取り見取りのイケメンなくせに、俺みたいな別に取り柄もないようなヤツにどうして執着するようなことを――。

「……っ、……っ!」

藤崎が押し入ってくる。決して強引にではなく、俺の呼吸と収縮に合わせて、けれど確実に入り込む。

この前は確かに強引に無理矢理挿れてきたはずなのに――今思い出してもあれは恐ろしいほどの激痛だった――いつのまにか藤崎は巧みに俺の中へと挿入する術を心得ていた。

藤崎が慣れたのか、俺が慣らされただけなのか。




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