3



透の後に僕も汗を流して、そこでようやく部屋中に充満した爛れた雰囲気は払拭された。

「紘人んちって全然食材ないよね?」
「そうか?これでも時々自炊してるんだが……」
「まあ、調味料はそれなりにあるしパスタとベーコンがあるから適当に作るか」
「ん?きみが作るのか?」
「そうだよ」

座ってて、と命令され、僕はリビングで出来上がるのを待っていた。

即席ペペロンチーノと言われて出されたパスタはとても美味しかった。
透は本当になんでも出来る。

腹が膨れると、透が僕の隣に座ってくっ付いてきた。僕もそれに逆らわず手を握った。

「やだどーしたの積極的で」
「嫌か?」
「ううん、嬉しい。でもほどほどにしてくれないとまた押し倒しちゃうから」

本気とも冗談ともつかないような口調で言われ、先刻の情事を思い出して僕は頬を染めた。
透が指を絡ませてきて恋人繋ぎの形にする。そういえば文化祭のときもこういうふうにされたんだった。

昼の明かりはだんだんと黄色くなり、オレンジっぽくなって部屋を染めた。

「……あのさ、紘人」
「ん?」
「俺さ、入学してすぐにあんたのこと知ってたんだよね」
「……そうなのか」
「うん、職員室行ったときにたまたま見かけてさ。紘人は俺のこと全然見てなかったから気付いてなかったと思うけど。俯きがちででっかい眼鏡して、おまけに寂しそうな顔してたからそれ以来気になっちゃって。で、ちょっと調べてみたら紘人って有名人だったんだよね。めちゃめちゃ美人だけどほとんど人と話さないし目立つような行動もしないし、人嫌いなんだって噂聞いてさ。だからみんな遠慮してあんまり話しかけたりしないって言ってて」

例の噂ってやつか。
目立ちたくないのは本当だが別に人嫌いというわけではないんだが。

「話してみたかったけど、人避けてるのに迷惑かなーって思ってた。でも俺、紘人のことずっと見てたよ。全校集会とかでも探してたし、廊下ですれ違わないかなっていつも思ってた。本当はかけもちで同じ部活に入りたかったんだよね。どの部活に入ってるか誰も知らなくててっきり帰宅部だと思ったらまさかの幽霊部員だし。だから視聴覚室で会えたとき、俺本当はすげードキドキしてた」
「…………」
「近くで見たらマジで美人で、なのに全然気取ったとこなくて、結構照れ屋で可愛いなーって思った。そしたらもう、気がついたら好きになっててさ」

もそ、と透が動く気配がして僕は隣に座った彼を見上げた。
透はふわりと微笑んでいた。

「今更こんなこと言うのも変な気がするんだけど……あの……西村先輩ってさ、紘人の彼女じゃなかったの?」

突然瑞葉の名を出されてどきりとした。

「最初、西村先輩と付き合ってるって聞いてたんだよね。んで、もう全然希望とかないじゃんって……つか、あんたの周りってマジで難易度高すぎてビビった。真田先輩筆頭に剣道部の先輩達とか、めっちゃ可愛い西村先輩が彼女かもとか、俺の入れる隙なんてないってヘコんでたよ。ただでさえ俺ただの後輩なのにさ。仲良くなりたくて必死だったけど、どんなにアピールしてもめちゃめちゃクールだし。だからね、紘人が練習試合に来てくれたの、嬉しかった」
「あれは……」
「西村先輩と一緒だったんでしょ?知ってるよ」
「ち、違う。きみがバスケ部だって知って、彼女の友人が見に行くって聞いたから僕が無理矢理付いて行ったんだ。部活をしてるきみを見てみたくて……その」
「そーなの?俺てっきり西村先輩が心配で付いて来てたのかと思ってた。なのに俺のプレーもちゃんと見ててくれてて、すごかったって言われて舞い上がっちゃった」





prev / next

←main


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -