3
くぐもったバイブ音で目を覚ました。
いつの間にか眠っていたらしく、スマホがクッションに埋もれていたせいで全然聞こえなかった。
慌てて音の発生源を探して手に取ると、スマホは途端に沈黙した。誰からの着信だったんだろうと思って履歴を見た僕は驚いて声が出た。
着信履歴は秋葉透の文字で埋まっていた。五分おきくらいに何時間も。
今の時間を確認すると午後の二時だった。
初めの着信は昼過ぎで、つまりはずっと電話をかけ続けていたということになる。
どうしたんだろう、何かあったんだろうかと不安に思っていると、またスマホが着信を告げた。
おそるおそる応答ボタンを押すと、懐かしい声が聞こえてきた。
『先輩!?先輩今どこ!?』
「あ、家……」
『わかった今から行く!待ってて!』
「え?いや、透――」
事情を聞く間もなく通話は切れた。
どうしよう、このまま待ってればいいんだろうか。そもそもどうして透が僕の家に来るんだろう。
色々と考えながら待っていると、程なくしてインターフォンが鳴った。
応答して画面を見ると、久々に見る透の顔がそこに映っていた。
「透……」
『先輩!あの、俺、長谷川先輩から聞いて……っ』
「学校は?」
『サボった!』
僕が攫われたことを長谷川が透に伝えたんだろうか。どうして?
『先輩……顔、見せて?』
そう言われて、僕はフラフラと玄関に歩いて行った。
玄関の鍵を開けて外を窺うと、そこには透が心配そうな顔をして立っていた。
本物の透の姿を見て鼻の奥がツンとする。
「先輩……」
玄関に入り込んだ透は僕を強く抱きしめた。柑橘の香りが僕を包む。
走ってきたのか呼吸は荒く、体も熱かった。
「ごめん先輩……俺が、あんなこと言わなきゃ、こんな……」
「あんなことって?」
「距離置こうとか、バカみたいなこと。意地はんないで一緒に帰ってればよかった」
「そのこと……長谷川から聞いたのか?」
「うん、俺とハセ先輩メル友だから」
衝撃の事実に僕は目を見開いた。一体どういう繋がりなんだ。
「ほら、文化祭で俺バンドやったじゃん?そのとき機材とかライブのこと教えてもらう関係で知り合って、で、音楽のシュミとか合うし、先輩と同じクラスだっていうからそれでなんとなく気があって」
なんとなくで上級生とメル友になれる透のコミュニケーション能力は本当にすごい。
一体どういう話をしてるんだろう。
「それで……あの、ちょっと謝んなきゃいけないんだけど、ハセ先輩には俺と先輩が付き合ってることバレてるんだよね」
「……は!?」
「お、俺からは何も言ってないよ?でもあの人、勘が異様に鋭くって、言い逃れできない状況になって、その……ごめん」
だからあの見透かしたような態度だったのか、と脱力する。
「先輩もわかってると思うけど面白がって言いふらすような人じゃないし、まあ大丈夫かなって。結構色々相談にも乗ってもらったし。でも先輩は身近な人に知られてるのは嫌かなーって思ったから黙ってたんだけど。えっと、それで、今回のこともハセ先輩に昼呼び出されて教えてもらったんだ」
「そうか……」
「でも無事で良かった……俺、話聞いてから生きた心地しなかったよ」
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