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決して透を疑うわけではない。
付き合っている人はいないと言っていたし、女子と健全なデートをしていただけ、と言っていた。――では男子なら?

でも男と付き合うのは僕が初めてだと言っていた。
そもそもあれだけ格好いいのだからわざわざ嘘をついてまで僕を選ばなくてもいいはずだ。

ならば天羽君が嘘をついていることになるが、何故?

僕と透が付き合っていることを知っているというようなことを仄めかしていたが、そういう関係になったのはつい最近だ。透が天羽君に言ったんだろうか。

「……せーんぱい?考え事?」
「あっ……」

はっとして顔を上げた。
僕たちは数駅先のファストフード店で小さいテーブルを挟んで向かい合っている。

透は頬杖をついて僕を見上げてきていた。
何気ない仕草なのにすごく格好いい。今日の私服もお洒落だ。

「もーせっかくのデートなのに別のこと考えてるなんてヒドイ!」
「す、すまない、そういうわけじゃ」
「いーよ別に。テスト前なのに俺が誘ったんだし?」
「本当にすまない。違うんだ」

そこまで責めている口調ではないが別のことを考えていたのは本当なので謝った。
テスト前でも僕だって透と一緒にいるのは嬉しい。

「テストと言えば、透は大丈夫なのか?」
「余裕ってわけじゃないけど、まあぼちぼちやってますよん。学年が同じだったら一緒に勉強できるんだけどねー」
「それなんだが……去年のテストとか残ってると思うから、良ければ勉強に使うか?」
「えっ、ウソ!マジ!?ほしいほしい!」
「先生も変わってないからそんなに傾向も外れないだろうし、過去問の練習にはなると思う」
「そっかー、そういうやり方があったのかー。もっと早く気付いてればよかった」
「僕も人に言われてさっき気付いたんだ。すぐに使うなら帰りに僕の家に寄って持って行けばいい」
「ううん、休み明けでいーよ」

また断られた。
僕は透だったら家に招いても構わないのだが、彼の方はそうでもないらしい。
一線を引いているというか、そこには踏み込まないという断固たる決意があるらしい。

『先輩は遊びだから――』

急に天羽君の言葉が蘇る。いや、そんなはずはない。ちゃんと透は、本気だから、と言ってくれた。そんなことで揺らいでどうする。

言い方もなんとなく遠まわしでどうとでも取れるような曖昧さだったし、透にどうなんだと聞けるような事柄でもない。だが――。

「……先輩また考え事ー」
「えっ?」

透の指摘に僕は再びはっとした。
透の顔が少し不機嫌そうになっている。

「あの……すまない」
「なんか悩み事?」
「別にたいしたことじゃないんだ……その……」
「何?」
「……僕たちのことを、誰かに言ったか?」

そう聞くと、透はぽかんとしていた。

「え、誰にも言ってないけど?家族にはバレバレだったけど。つか、もしかして誰かに変なこと言われたの?」
「いや、そういうわけじゃないんだが……」
「俺的にはオープンに言っちゃってもいいんだけど、先輩はそうじゃないでしょ?それを無視したりしないよ」

透の言葉に驚く。男同士ということで波風どころじゃないしがらみが付いて回るのは承知でそう言ってるのだろうか。

僕が余程難しい顔で考え込んでたようで、透に眉間を指で押された。

「先輩真面目だから色々考えちゃうんだね。そういうとこ好きだけど、今はデート中なんだから忘れて。じゃないと俺、拗ねるよ?」
「すまない……って、謝ってばかりだな」
「そうだねぇ。どうする、心配事あるならもう帰ろっか?」
「……そうした方がいいかもしれない。ごめん、透」
「いんだよー。テスト終わったらちゃんとデートしよ?あ、お昼は来てよ?先輩に会えなくなったら俺マジで干乾びちゃうから」
「なんだそれ」

くすりと笑いが漏れると、透もにっこりと笑った。
彼は場を和ませる天才だなとつくづく思う。

帰り道は余計なことを考えず楽しく話をしながら歩くことができて、透の機嫌も直ったようでホッとした。




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