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昼時になり、僕は透特製弁当を抱えて視聴覚室へと向かった。

到着するともう透は来ていた――が、吉住君と園田君、それに天羽君も来ていた。
驚いた。月曜は『弁当の日』だからなんとなく二人きりで食べていたのに、人が来たのは初めてだった。

「先輩おはでーす!」
「沖縄どーだった〜?」
「ごめん先輩……ついて来ちゃった」

透が困ったような笑みを浮かべている隣で、天羽君がぺこりと頭を下げてきた。しかしその視線は心なしか鋭い。

透の隣は吉住君と天羽君が陣取っていたので、その向かいの園田君の隣に座る。

「久しぶりだな」
「うん久しぶり〜ってか、先輩、とーるちゃんと仲直りしたんだねぇ。喧嘩おさまって良かった〜」
「そーそー。コイツずっと暗くて鬱陶しかったのが、今日になってご機嫌?てか幸せオーラ出してたからどうしたのかと思ったらさー」
「先輩と仲直りした〜って朝からデレッデレ!とーるちゃんきもーい」
「うっさい。もういいでしょ別に」

吉住君と園田君にからかわれて透が不機嫌そうな顔を作る。が、すぐに口元が綻んでくる。僕もなんだか可笑しくなった。

というか僕たちは喧嘩していたことになっていたのか。
まあ、あれほどあからさまに避けていたのだからそう思われても仕方ない。

天羽君は黙ったまま僕たちの会話を聞いている。
昼休みも有限なのでさっそく弁当を広げると、吉住君が大声を上げた。

「あれっ!?どーして透と先輩弁当の中身同じなの!?」

あ、そういえばそうだった。
透は自分で弁当を作っていることを伏せているらしいからそっと彼を窺うと、にやぁと笑った。

「先輩の栄養管理は俺の仕事なの」
「なんで?」
「先輩一人暮らしだからまともに食ってなくてさ。だからうちのおかんがついでに作ってくれてるの」

なるほどそういうことにするわけか。相変わらず料理好きなのは言いたくないらしい。

「えっ、先輩一人暮らしなの?うらやまし〜」
「実家が遠くてな。通えない距離だから」
「マジすか!えー今度遊びに行っていい!?」
「行きたい行きたい〜!」
「散らかってるから基本的に誰も上げないことにしてるんだ」
「そんなこと言わずに〜。俺、掃除してあげますから〜」

僕は断固として首を縦に振らなかった。
もともと他人を自分の空間に招き入れることが苦手だ。司狼は何回か来ているが、入り浸るようなことはしない。

「それくらいにしなよお前ら。……つか先輩、最近髪型いつも違うよね?朝はいつも通りだったのに」

透に思いついたように聞かれて一瞬考える。

「ああ、美容院の家のクラスメイトにやられるんだ。いつも器用で感心する」
「そうなんすか。カッコイイですよね!」
「そうだよね〜似合ってるし先輩オシャレ〜」
「……バッカじゃないの?」

突然聞こえた低い声に、場の空気が凍った。
声の主を見ると、天羽君がそっぽを向いてパックジュースを啜っていた。

「……天羽?」

透が声をかけると、天羽君は不機嫌な顔をしたまま立ち上がった。
そのまま視聴覚室を出て行く。

僕たちはぽかんとして彼の出て行ったドアを見た。

「なんだよアイツ、急に」
「わけわかんない〜」
「空気悪くしてごめんね先輩。天羽っていつもあんな感じじゃないんだけど……」
「……いや」

僕は前回もあんな感じで刺々しい態度を取られていた。
天羽君に嫌われているんじゃないだろうか。

そうだ、僕は彼にとっては透に付きまとう鬱陶しい先輩なんだ。ああいう態度も納得がいく。しかし僕を嫌っているなら、どうしてここに来たのだろうか――。

ふと、透の顔を見る。彼は柔らかく微笑んで首を傾げた。

もしかしたら、天羽君は僕が透の昼の時間を独り占めしてるのが気に入らないのかもしれない。
かといって譲る気はない。
学年も部活も違う僕は、一緒に昼を過ごすこの時間がなによりも大切だから。メールや電話のような連絡ツールはあるけれど、やっぱり顔を見て話したい。


その後は何事もなく談笑しながら昼休みを過ごしたが、天羽君のことは胸の奥底に澱のように残った。




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