4



風呂から上がると部屋に布団が敷かれていた。
それを見て本当に泊まるんだと改めて認識して、顔が熱くなった。

テーブルも端に寄せられ、部屋いっぱいに敷かれた布団に所在なく小さくなって座る。
スマホを確認しながら待っていると、いくらもかからず透も風呂を出てきた。

濡れた髪をタオルで拭きながら登場した風呂上りの透はいつもと違って少し大人っぽくて色気があった。
目が合うと、透が布団にダイブしてきた。いや、布団じゃなくて、僕に。

「い……いただきます!」
「うわっ!?」

僕に思いっきりタックルをかますと、そのまま何度もキスを降らせてきた。
その重みに耐え切れず、僕は布団に沈んだ。

「んー風呂上りの先輩色っぽい」
「と、透」

ちゅ、ちゅ、と顔中にキスをされて僕は恥ずかしくなった。
彼の愛情表現は直情的でどうにも慣れない。

そのまま何度も優しいキスが繰り返され、やがて唇に重なった。
キスが遅くなり、頬を伝って耳元を唇が辿る。

だんだんと甘い雰囲気になっていく。
これ以上は止めないと……そう思っているのに制止する動きが鈍ってしまう。

しかし、その空気は大音量の着信音で壊された。今公開中の有名海外アニメの主題歌だ。

「あー……俺だ」

マナーモードを切っていたらしい透は体を起こして苦笑した。僕も慌てて起き上がって乱れた胸元を正した。
すごく恥ずかしい雰囲気に呑まれていたような気がする。

透は応答ボタンを押してスマホを耳につけた。

「なに?んー……ちょっと待って」

透がスマホを肩と耳で押さえながらスクールバッグを開く。

「あーあったあった、ごめんねー。必要だった?あ、そう……ん、じゃあ明日渡す。ごめんね天羽」

天羽、という名前に僕は思わず反応した。
夏休み中に会ったあの少女のような少年の顔を思い出す。

透は着信を切り、スマホをベッドに放った。

「……やばかった。あのままだったらマジでやばかった」
「なにが?」
「エッチに突入しちゃうとこだった」

透が真剣に言うものだから僕は派手にむせた。
しかし彼はもうけろりとしたもので布団に寝転んだ。

「ごめん先輩。イヤじゃなかった?」
「へ、平気だ」
「あー良かった!マジで天羽に感謝だわ」
「その……天羽って」
「覚えてない?うちのマネージャー。なんか先輩に変なこと言ったヤツ」
「お、覚えてるが」
「なんかあいつの数学のノート持って帰ってきちゃったみたいでさ。授業聞いてなかったとこ放課後に写させてもらったんだけどーそん時だよねえ」

ぱらぱらと天羽君のものらしきノートをまくる透の手元を僕も覗き込んだ。
字がきれいで見やすくまとまっている。

「ほら、金曜に先輩から電話来たじゃない?そんとき授業中だったからノート取りそびれちゃって」
「やっぱり授業中だったのか。無理に出なくて良かったのに……」
「えーそういうわけにはいかないじゃん?せっかく先輩からかけてきてくれたんだし」

透はあの日、僕からの着信を知って「先生、お腹痛いんで便所行って来ます!」と堂々宣言して教室を飛び出たらしい。なんとも彼らしい行動に僕は笑った。



その後は特におかしな雰囲気にもならず、とりとめのない話をした。

透の匂いのする部屋で、透が近くにいる場所で眠る。
少しの興奮と、胸の高鳴りと、安心感に僕は夢も見ずに眠りに落ちた。




prev / next

←main


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -