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かなりの時間をかけて先刻出てきたはずの秋葉家にまた逆戻りした。
どうやら当初来た道とは違うルートを通ったらしい。

「先輩入って?」
「……ああ」

促されて門に入る。明るく柔らかい灯りにホッとした。

「ただいまー」
「おかえりーって……あれ?透どうしたの?松浦君?」
「ん、ちょっとね。ね、母さん、先輩今日泊めていい?」
「いいわよ?でも突然ねぇ……」
「てなわけでいいよね、先輩?」

どうやら僕は秋葉家に泊まることになったようだ。
わけが分からなくてぽかんとしていると理子ちゃんも顔を見せた。

「えーなになに松浦さんお泊まり!?やったー理子とゲームしよ!」
「しないの!じゃ、母さんよろしく」
「はいはい。あとでお布団下ろすの手伝いなさいよ〜」

促されてまた透の部屋に行く。
室内は僕が出て行ったままの様子で、透が僕を慌てて迎えに来てくれたのだとわかって胸が詰まった。

「……すまない」
「なんで謝るの?俺としては付き合った初日から初めてのお泊まりでドキドキなんですけど?」

茶化したように言う透にぎこちない笑みしか返せなかった。彼は表情を引き結んで僕を座らせた。

「なんかごめんね、引っ張ってきちゃって。でも先輩一人暮らしだし、あのまま後つけられてたら危なかったから」
「なら、逆に透の家のほうが危ないんじゃないか?理子ちゃんが狙われたり、ご家族が――」
「んーん、うちは平気。なんてったってあの親父だから大抵のヤツはびびって逃げてくし」

お父さんのいかつい姿を思い出して納得する。
話すととても陽気だけれど、黙っていると屈強な豪傑に見える。

「それに親父ああ見えて弁護士だからね。そういうトラブルには強いよ」
「ええ!?」
「意外でしょー?」

ニコニコと笑う透を見つめる。場を和ませるための嘘ではなさそうだ。

「まあだから、あんま心配しないで?……で、先輩何があったの?」
「……電車が混んでて、その、痴漢かと思って避けてたんだが」

あの男に関する顛末をぽつりぽつりと話すと、だんだん透の表情が硬くなって不機嫌になっていった。

「突然でびっくりして、上手く対処できなくて……」
「や、普通に驚くでしょそんなの。男の痴漢って言い出しづらいしねぇ。でも俺に連絡してきてくれて嬉しかった」
「巻き込んですまない……」
「いーの、彼氏なんだからどんどん巻き込んでよ。そうじゃないとむしろ心配でどーにかなっちゃうって」

透に抱きこまれて、ようやく僕も肩の力を抜いた。
すると階下から「お風呂いつでも入れるわよー」という声がした。

「一緒に入る?」
「入らない!」
「はは、冗談冗談!んで、明日なんだけど、俺部活あるから朝早く出なくちゃいけないんだよね。一緒に家出て、先輩は自分の家に帰って用意してから学校来ても十分間に合うと思うけどどうかな」

移動時間と登校時間を逆算して、たしかに間に合うことを確認する。

「そうだな。大丈夫だ」
「おっけ。俺の目覚まし5時に鳴るけど気にしないで寝てていいからね」
「5時!?」
「うん、いつもは軽くジョギングしたあとに弁当作るから」

登校時間ぎりぎりまで寝ている僕の自堕落な生活とはまるで正反対の生活に眩暈がした。
すごく健康的だ。

「じゃ、先風呂入って?」
「僕は最後でいい。年頃の女子もいることだし」
「……先輩すげー。紳士だね」

しかしお母さんに「お客さんが先!」と促されて結局一番風呂をいただくことになった。
湯船には申し訳なくて入れなかったのでシャワーだけで済ませた。


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