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「んー先輩いい匂い……」
「そ、そうか?」
「うん。もー匂いかいでるだけでクラクラする」
「あの……聞いてもいいか?」
「なに?」
「い、いつからその……僕のこと、好き、とか思ったんだ?」
「えー?」

透が僕の体を反転させて後ろから抱きこむ体勢にした。
僕の肩に顎を乗せてうーんと唸る。

「割と最初の方から好きだったんだけど……先輩のことそういう意味で好きって意識したのはやっぱ電話のときかな?」
「電話?」
「そー。番号教えてもらって、初めて電話したとき。夏休み入ってすぐくらいの」
「へえ?」

意外な言葉が返ってきて驚いた。
続きの言葉を期待したがなかなか出てこないので首をひねって透を見た。

「……それで?」
「あ、や……つか、先輩絶対引くからそれ以上はちょっと」
「何だ、気になるな」
「えー引かない?」
「聞いてみないと分からないだろ」

んー、と透が困ったように笑う。

「だからー……あのね?電話越しの先輩の声がエロくって、その、電話しながらヌいちゃっ……ほらー!!やっぱり引いてる!ドン引きじゃん!」
「それは引くだろう、普通に……」

予想以上の変態行為に僕は思いっきり顔を顰めた。

「じゃーさ、先輩はどうなのよ?俺のこといつから意識してくれてたの?」
「……どうかな。僕はきみのファンだから元からといえなくもないが」
「ファン?」
「ああ、ファンクラブにも入ろうと考えたくらいだ」
「つーかそのファンクラブって何?俺全然知らないんだけど……」

微妙な顔つきで戸惑っている透がおかしい。本当に本人は知らないようだ。

「いや、僕もその実態は知らない。後夜祭のライブあとにも新たに設立されたらしいぞ?」
「そもそも本人が目の前にいるのにファンクラブとかマジで意味が分かんないんだけど。先輩ってそういうとこ不思議だよねぇ」
「不思議?失礼だな」

ムッとして言い返せば、透はふにゃりと顔を崩してまた抱きついてきた。

「あー可愛い!先輩めっちゃ可愛い!好き!」
「透、痛い、苦しい」
「ごめん、でも可愛いー。肌すべすべー」

ぐりぐりと頬と頬を押し付けられて、男同士で何をやっているのかという気持ちと、透と触れ合えて嬉しいという気持ちがせめぎ合う。

「ね……もっかいキスしていい?」
「……ん」

僕は体をひねって透と改めて向き合い、顔を傾けた。透も同じようにして唇を緩ませる。
本当に、それすらすごく格好良い。そして色っぽい。

話しているうちに少し乾いた唇を、舌で舐められる。
そうして潤うと、再びキスに没頭した。頭の芯が痺れるほど気持ちがいい。

好きだ。彼のことがすごく好きだ。まさか彼と付き合えるだなんて夢じゃないかと思う。

「……先輩……」
「ん……?」
「ちょっとだけ、触ってもいい……?」

どこを、と聞く前にするりと背中から腰を撫でられた。
キスで浮ついた気分になっていた僕の体はそれだけの刺激でゾクゾクと反応した。

そのまま透の手は不埒な動きで僕の際どい場所を撫でる。胸元や、脇腹、太腿を。
ただ触るだけじゃない、はっきりとした欲を持った動き。服の上からでもそれが感じられる。

「……こういうの大丈夫?」
「う……ん、平気だ……」
「なら良かった。じゃ、ここまでね?」
「ああ……」
「もーそんな物欲しそうな目しないで。俺すげー耐えてるんだから」

物欲しそう?僕はそんなに浅ましい目で透を見ていたのか。
急に恥ずかしくなって透から少し体を離した。

「てか、先輩も俺のこと好きに触っていいよ?」
「へ、変なことを言うな!」
「冗談じゃなくて本当に。その気になったらいつでもどうぞ?」

透は悪戯っぽく笑ってまた軽くキスをする。
自然にそういうことが出来る彼はかなり経験がありそうだ。
それに対して僕は空回ってばかりですごく悔しい。

「それでさ、明日なんだけど……」

透が言いかけたときに突然せっかちなノックと共にドアが開いた。

「おにーちゃん、松浦さんも晩ごはん食べてくかってお母さんが……」

僕と透は固まった。まだ抱き合ったままだったから。

「おっ……」
「り、理子……あのね?これはその……」
「おかーさーん!イケメンさん、おにーちゃんの彼氏だったー!!今日ご馳走にしてー!!」
「やだー今日カレーにしちゃったわよぉ。お赤飯炊かなきゃ〜」

何故かズレた反応を聞いて透が慌てて部屋を出て行こうとした。
すると近くの部屋のドアが開いた音がして荒い足音とともに大声が響き渡った。

「おまっ、ふざけんな!俺は彼氏なんて許しません!!」


そう言ったのはお父さんではなく、初対面したお兄さんだった。





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