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そこまで話してから少し互いに沈黙する。

落ち着かなくてアイスティーをごくりごくりと何回にも分けて飲む。
透も一口飲んで、静かにグラスを置いた。

「……俺ってさ、自分で言うのもなんだけどすげーポジティブなんだよね」
「ん?」
「さっきから聞いてると、先輩って俺のことキモイとかこのホモ野郎とか、そんな感じで突き放さないから――」
「……うん?」
「要するに結構期待しちゃってんだけど?」

首を傾げながら完璧な格好良い顔で笑う透に、僕はぶわっと全身熱くなった。

「き、き、きみがちゃんと考えろって言ったんだろ」
「うん、真面目に俺のこと考えてくれて嬉しい。てか、さっきまでの話だと、俺が彼女とかいないならオッケーっていう風に聞こえてるんですけど、違う?」
「い、いや、その、あの……」

ニヤニヤと笑いながら透が少しずつ距離を詰めてくるので、僕は反射的にじりじりと逃げた。

そんな攻防を続けていたが、テーブルを一周したところで透に捕まった。
手を握られて耳まで熱くなる。

「文化祭の日、どうして俺とキスしたの?イヤなら逃げられたよね?」
「そ、それは……」
「俺、別に無理強いとかしてなかったよね?てか、逃げられるように隙は作ってたはずだけど」

透の指が僕の指に絡む。人差し指が手の甲をつぅ、と撫でた。

「今もどうして逃げないの?俺ほんとに期待しちゃうよ?」
「う……そ、その……」
「いいの?逃げるなら今のうちだよ?」

僕は透の腕の中に捕まった。
でもたぶん、自分からそこに飛び込んだんだ。



「ん……」

透の優しいキスを受けながら僕はとろりと溶けてしまった。
軽くついばむキスを何度も繰り返されると次第に息が苦しくなって、僕は透の背にしがみついた。

文化祭の夜にした口付けは興奮でいっぱいだったが、今はそれとは少し違う。
ドキドキしてたまらないが雰囲気はひどく甘い。

唇が離れると名残惜しくて今度は僕の方から唇を追った。
幸福感に満たされたキス。なのに背徳感で堪らない気持ちになる。

「……ごめん先輩、ちょっと今日はここまで」
「ん……?あ、ああ……」
「これ以上やると、俺やばいから」

言われている意味を理解して僕は羞恥に俯いた。

「家族もいるしね?」
「そ、そうだな……」
「……つか、ぶっちゃけ聞いていい?先輩的にはどこまでオッケー?」
「ど、どこまで、って?」
「だから、キスまで、とか、触るとこまで、とか……そういうの」

本当にぶっちゃけすぎて返答に困る。

「そういうきみはどうなんだ。僕は男だぞ」
「うん、そりゃ、エッチしたいです。正直言うと先輩のこと抱きたい」
「抱っ……」
「だからさ、ダメなこと言っておいてくれないと、俺調子に乗ってやっちゃいそうだから怖くて。もう先輩のこと怖がらせたくないし……先輩だってヤでしょ?」

そう言われても、今さっき付き合い始めたような関係でどこまでとは考えが及ばない。

「……いや、その……キスは平気というか、好きだと思う。たぶん、触ったりするのも平気かもしれない」
「うんうん、で?」
「正直やってみないとわからないところが多い。僕こういうのは初めてで……」
「ん?男と付き合うのが?」
「……あの、ちゃんと付き合ったりとか、こういう行為が……」
「ってまさか先輩、俺が初恋人!?初キス?まさか童貞すか?」
「さ、さすがにファーストキスじゃないが、未経験で何か悪いか?」
「えー悪くない!全然悪くない!そっか、じゃあ当面俺がリードした方がよさそ?」
「まあ、たぶん。勝手が分からないし……」
「それじゃ、ゆっくりやってこっか。先輩がいけそうだなーってとこまでして、ダメなら止める感じで。どう?」

僕は無言で頷いた。流れで僕が未経験なのがバレてしまったが変に見栄を張ってもしょうがない。
それに僕は、透相手なら何でも大丈夫な気がしていたから。

「つっても俺だって男は初めてだし、今だってすげー緊張してる。震えてんの分かる?」
「いや……余裕だと思ってた」
「全然余裕なんてないよ?だからまあ、一緒に焦らないでやってこ?俺、先輩のこと超大事にするから」

胸を張ってそう宣言する透はとても男前だった。

「ぼ、僕も……大事にする。きみのこと」
「やだ先輩カッコイイ!惚れるわー!もー好きにしてぇ!」

言いながら僕を胸に抱きこむ透。柑橘とミントの香りが僕を包んだ。
すりすりと透が僕の頭に頬を擦り付ける。犬みたいで可愛い。




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