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彼の部屋だというドアに通されて、僕はつい中を見渡した。

透は自身だけじゃなく部屋までお洒落だった。
机やラックは甘すぎないデザインで、観葉植物まで置かれている。
ベッドカバーは大胆な柄だけど不思議と部屋の雰囲気から浮いておらず、本棚まできちんと整頓されているのが透らしいと思った。

「適当に座って?」
「あ、ああ……」

テーブルのそばにすとんと座る。
丸く平べったい座布団の下のラグがふかふかとしていて手触りがいい。

透は一度部屋から出て、飲み物やお菓子を持って戻ってきた。
ケーキはお母さんの手作りなのだという。まるで店で売っているかのような綺麗なケーキだ。

「さすがきみのお母さんだな。料理はお母さんに習ったのか?」
「ああ、違う違う。あの人菓子しか作れないの。普段の料理はボロッボロ。味は悪くないんだけど変な創作料理に走る癖があってさ。ちくわカレーとか」

カレーにちくわ?それは逆に見てみたい。

「……てかさ、家族と俺、顔似てないって思ってるでしょ」
「いや、そんなことは……」
「似てなくて当然だよ。だって俺養子だし」
「えっ!?」

透の口から出た言葉があまりにも予想外だったので思わず聞き返した。
しかし当の本人は実にあっけらかんとしたもので、何も気にしていないように見えた。

「わりとみんな知ってることだからそんな顔しなくていーよ。俺の親、俺が物心つく前に事故で死んじゃってさ。両親どっちも孤児で親戚いなかったから、親の親友の家に引き取られたの。でも俺は普通に秋葉家の家族として育ってきたし、全然人んちとか思ってないよ?さっきの会話とか聞いてればわかるかもだけど。これ聞かされたの小学生のときで、そう言われてもフーンとしか思わなくてさ」
「う、うん」
「おまけに言った親父の方もそれだけーって感じで終了。兄貴はちょっと気にしてたけどね。あ、兄貴っていっても双子で二人いるんだよ。素也はここから大学通ってるんだけど、片割れの方の慶輔はもう社会人でさ、県外で一人暮らししてる」
「そ、そうか……」

思わぬ秋葉家の事情に僕の方がたじろいでしまった。なんとも返答しにくい。

一口茶を飲んで、透がじっとテーブルの向かいから僕を見つめていることに気づいた。
どうやら早めに用件を切り出さないといけないようだ。僕も長居をする気はない。

「……で、先輩。話って?」
「ああ……うん」

どこから話し始めたものか、と少し迷っていると、透の方が先に口を開いた。

「あのさ先輩……この前はごめんね」
「いや、それは……」
「ほんと、嫌な思いさせてごめん。そんなつもりなかったんだけど、先輩の顔見たらわけわかんなくなっちゃって……」

この前の夜のことが蘇る。僕は震えを止めるように腕をぎゅっと抱きしめた。

「もう俺の顔も見たくないかなって思ってほとんど諦めてたんだけど、先輩から連絡来て嬉しかった」
「透……」

そう言ってふわりと笑う透。少し大人びた笑みに僕の心臓が跳ねた。

「……ひとつ、確認したいことがあるんだ」
「なに?」
「本気……って、どういう意味だ?」

僕の問いに透が目を丸くする。そして照れ臭そうに笑ってから、表情を引き締めた。

「あのね、俺、先輩と付き合いたい。先輩の彼氏になりたい」
「ゆ、友人じゃ、駄目、なのか?」
「ダメ。だって俺、先輩のことエロい目で見ちゃうし、普通の友達とかもう無理」

そう言って流し目で僕を見つめる透はひどく色っぽく見えた。
しかしそれも一瞬でいつもの顔に戻る。

「つっても、その、先輩がダメっていうならそういうのナシでいいし……や、チューくらいはしたいけど」
「だったら友人でいいじゃないか」
「それだと他のヤツに持ってかれちゃうじゃん。そんなのは嫌だ」

きっぱりと言い切る透に僕の方が赤くなってしまった。

「……一応聞くが、きみはゲイなのか?」
「え?や、うーん……今までそんなことなかったんだけど、先輩のことは好きだからそういうことになるのかな?でも先輩以外の男見ても何にも思わないし」
「僕のことは男だって分かってるんだな」
「あーその……だからね?あんなことしといて全然説得力ないけど、俺、先輩のこと女代わりにーなんて思ったことないし普通に男としてカッコイイと思ってるよ。てかさ……」

言いにくそうに透が言葉を切る。僕は黙ってその先を待った。

「あの……なんか、こんなこと聞いていいのかわかんないんだけど、そういう……女代わり?みたいなことされたことあるの?」
「……ない……とも言い切れない」
「それって真田先輩?」

だからどうしてそこで司狼の名前が出てくるのかわからない。
もしかして傍から見てるとそういうふうに見えるのだろうか。

「この前も言ってたが、どうして司狼なんだ?たしかによく一緒にはいるが……そんな風に見えるか?」
「え?うーん……俺は先輩と真田先輩が仲良すぎてそれ見るたびにすげー嫉妬するし、それに、電話で――」
「?」

透ががしがしと頭を掻いてテーブルに突っ伏す。
彼のスマホから着信のバイブ音がしたが、透は舌打ちして電源を落とした。

「……あのさ。文化祭のあと、何があったか聞いてもいい?代休のこと、とか……」
「あと?」

聞かれて思い出すのは透との熱に浮かされたようなキスだった。
それは文化祭当日のことだったがそのあととなると、風邪で寝込んでいたことしか思い出せない。

「一応何聞いてもいいように覚悟はしてるけど……」
「だから風邪を引いてずっと寝てたんだが」
「あーもう!だからさ、ぶっちゃけ聞いちゃうけど、後夜祭のあと、真田先輩とエッチしたの?」
「……はあ!?」

なにをどうぶっちゃけたのかはわからないが、とんでもない勘違いだ。




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