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どれくらい経っただろうか、ぽつぽつと司狼と文化祭のことを話し始めて、関係のない最近読んだ本とか昨日見たニュースのことだとかを話しているうちに外が薄暗くなってきた。
そろそろ司狼は後夜祭のために戻らないとならない。

僕はこのまま帰ってしまおうかと思ったが、司狼に「ちゃんと最後まで参加してけよ」と厳命されたので一緒に学校に戻った。
雨は一層強くなってきたが、幸い今年は館内で行うプログラムだったので問題ないらしかった。

僕と司狼が校内に入るや否や司狼は実行委員会の面々に連れて行かれてしまった。
激励だけ送って僕はどうしようかなとぼんやりしていた。

参加しろとは言われたが、あの会場内に瑞葉と立花先輩がいるのだと思うとどうしても足は向かなかった。

僕はお馴染みの視聴覚室で時間をつぶすことにした。
閉会の挨拶あたりにまた戻ればいいと思い、のろのろと生徒達の流れを逆行する。



視聴覚室は相変わらずじめじめとして陰気で、今の僕の気分にピッタリだった。
いつも座っている窓際の端に腰を落ち着けてテーブルに突っ伏す。とても疲れていた。

ふと思いついてメール画面を開いた。昨日見ていなかった透からのメールを手持ち無沙汰に開封する。
内容は『明日弁当作ってくから一緒にお昼食べよー?』。きらきらとした絵文字つきのメールが透らしくて笑ってしまった。

そうか、僕はこれをすっぽかしてしまったんだな。
昨日の時点で見なくて良かったと心底思う。透には心の中で謝った。

遠くの方からワァワァという賑やかな歓声と音楽が流れてきた。後夜祭が始まったらしい。
僕はそれを聞きながら目を閉じた。少し眠ろう。昨日はほとんど眠れなかったから――。



机に突っ伏したまま浅い眠りに浸っていると、不意にスマホが震えた。バイブが途切れないということは着信か。

すっかり日が落ちて真っ暗な部屋の中に画面がぼうっと光っている。
出るのすら面倒でそのまま放置していると、教室の外から物音がした。
起き上がって物音に耳を澄ましていたら突然ドアが開いた。

「ここにいた!先輩!」
「と、透!?」

慌ててスマホを見ると光っている画面は透からの着信だと告げていた。
というか驚いたのだが、透はビジュアル系?のような黒いゴテゴテとした衣装を着ていた。髪型もいつもと違い、左右違いの斜に構えた雰囲気だった。

それらがやたらと似合っていて格好良い。
昼間とは全く違ったいでたちに一瞬本当に透かと疑ってしまった。

「ちょっとかくまって!」
「はあ?」

透は僕を椅子から引き摺り下ろし、机の下に押し込んだ。
視聴覚室の机はフロントパネルが付いていて、体をかがめて潜り込んでしまうと姿がすっぽりと隠れてしまう。
これが昼間で明るいうちならば足元は丸見えだろうが、室内はもう暗くすぐにはわからないだろう。

僕の隣に透が密着して潜り込んでくる。
わけが分からず透を見ると、彼は「しー」と人差し指を口元に当てて僕に沈黙を促した。

そのまま黙って耳を澄ませていると、室外で人の話し声がした。
女子が数人いる気配がしたが、すぐにいなくなった。
視聴覚室独特の静寂が戻り、しんとする。

「……ごめん先輩、急でびっくりしたよね?」
「いや、驚いたが……その格好は?」
「つか先輩後夜祭来てなかったの?俺先輩が見てると思って頑張ったのに……」
「後夜祭で何かやったのか?」
「うん、運動部有志によるゲリラライブ……のテイを装ったライブ&ダンスステージ」

どうやらプログラムに載っていた仮装コンテストというのはダミーであり、実態はゲリラライブだったらしい。
生ライブに乗せてストリートダンスを披露するというもので、それはそれは盛り上がったらしい。

「透は音楽の方担当で出たのか?」
「うん、俺ボーカル」
「歌えるのか……」
「ひどくない!?俺、結構歌に自信あるよー?だけどさ、舞台はけたあとになんか女の子に囲まれちゃって必死で逃げてきたんだよ」

それは相当ライブステージが良かったということなんだろうな。そうと知ってれば見に行けば良かった、と少し後悔してるとまたドアの方から物音が聞こえた。

また透の追っかけかと思ってどちらともなく黙ると、人が入室してきた。
いよいよ見つかるかと思ったが、どうも関係ない男女のようだった。仲良さげに話をしている。





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