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僕達はそのまま特に喋ることなく渡り廊下前まで来て別れた。

バーテンダーの衣装を脱いでいつもの制服に着替えていると、メールが届いた。
透から写真添付されたメールだ。

『待ち受けに使ってねダーリン』

ハートマークが5個ついた一文とともに送られてきたのは、格好良くてやんちゃな笑みを浮かべた透と、仏頂面の僕が顔を寄せ合って写っている写真だった。

写真加工アプリでも使ったのかハートマークとキラキラとした画像効果が使われていて手書き風の文字で『ラブラブ』と書かれていたので思わず笑ってしまった。
僕はすぐに写真を保護した。



昨日と同じ面子で昼食をとったあと、僕と司狼は校外に出た。というより、黙って僕の腕を引いた司狼が雨の中校外に連れ出したのだ。

少し年齢層高めのカフェに連れ込まれたが、制服姿でも司狼はその場によく馴染んでいた。
何も頼む気になれない僕の分まで司狼が勝手に注文する。

「いいのか司狼。学校を離れて。実行委員なんだろう?」
「……昨日瑞葉に聞いた」
「っ……」

いきなり切り出されて僕は息を呑んだ。
思わず俯いてしまうと、司狼の溜息が僕の耳に届いた。

「なんであんなこと言った?お前、瑞葉が好きなんじゃなかったのか?」
「……僕はきみに一度もそんなこと相談してないが」
「言われなくても分かる。見てれば一発だ」

そうだろうと思っていた。だからあえて言わなかったのだ。

「瑞葉だってお前のこと、その……結構いい感じだと思ってたんだがな」
「じゃあどうして彼女は僕に他の男に告白されたなんて言ったんだ?」
「そりゃ……お前がいつまでたっても行動しないからいい加減焦れたんだろ。わかれよ、それくらい」
「わからない。そんなこと」

いや、分かっていた。瑞葉のことを愛情を持ってずっと接してきたのだから。
そしてそれを行動に移せなかった臆病な僕。
司狼が乱暴な仕草で自分の頭を掻いた。そして長く大きな溜息を吐く。

「それに、瑞葉はもう立花先輩を選んだ。何も言わない、しない僕を見限ってな。今更そんなことを言われても遅い」
「……そうなのか?昨日の時点では泣きながらどうしようって言ってただけだった」
「言われたから。立花先輩本人から」
「そうか……」

落胆したように司狼が言う。何故彼の方ががっくり来てるのかが理解できない。
親友である僕が失恋したことに同情でもしているのだろうか。

「……瑞葉は後悔してた。紘人を傷つけたって泣いてたぞ」
「…………」

ぐっと膝に置いた拳を握る。瑞葉の泣き顔など想像もできない。

「司狼、僕は傷ついてなんかいない」
「紘人」
「……本当なんだ」

司狼が窺うように僕を見た。だから僕も司狼を正面から見つめ返した。

「僕はああ言ったことを後悔してない」

瑞葉の好意を突き放したことを。
僕の気持ちはとっくに離れていたから。ただの友情と親愛に戻っていたから。

「お前……」
「言い方を選べば良かったとは思ってる。でも本当なんだ。だから、傷つけたのは僕の方なんだ。身勝手で、すまない」
「……理由、聞いてもいいか?」
「…………」

言えるはずもなかった。僕自身まだふわふわとして捉えどころがなく、考えがまとまらない。単純に進むのが怖いだけかもしれない。
ただ、この先しばらく誰とも恋愛ごとに関わるのは嫌だと思った。

「……僕もまだ、混乱してて、その……うまく言葉に出来ない……」
「紘人……」
「ごめん、司狼……ごめん……」

片手で顔を覆い少し俯くと、頭に司狼の大きな手が乗せられた。
ぽんぽんと撫でられると気持ちがいい。子供の頃に戻ったような感覚だ。

「悪い。ちょっと責めすぎたな。お前だって参ってるよな」
「ん……」
「いい、今は何も聞かねえよ。でも耐えられなくなったらいつでも言えよ。親友なんだからな」
「すまない……本当に……」
「いいから謝るなって。詫びになんか奢るから」

昼食を食べたのはついさっきのことで全く腹は減ってない。僕は首を振った。
しょうがねえなあと司狼が苦笑する。

司狼はいつも僕に優しいわけじゃない。
自分でどうにかできると判断したものには手を出してこないし冷静に突き放す。その線引きと距離感が好きで僕は司狼と共にいた。

でも透は違う。彼は僕を甘やかす。ぐずぐずのトロトロになるまで甘やかしてくれる。だから友人にはなり得ない。
僕は弱い人間だから、きちんと突き放してくれないと駄目になる。

運ばれてきたコーヒーが冷めてしまうまで、僕と司狼は互いに黙ってそこにいた。


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