文化祭二日目








翌日は朝から雨だった。激しくはないがパラパラと街を濡らし続けている。

布団にぐずぐずと包まっていたら少し遅刻してしまった。
教室に顔を出すとクラスメイトはほぼ揃っていた。

「おはよう」

声をかけるとクラスメイト達が僕を取り囲んだ。突然の事態に戸惑う。

「な、何……」
「いいからいいから!」

僕は椅子に座らせられ、その場に固定させられた。
わけが分からずされるがままになっていると、橋谷が僕の髪を弄り始めた。彼はたしか美容院の息子だったな。

「やっべ、松浦の髪ちょーサラサラ!なんだよこの手触り……!」
「あの、橋谷……?」
「いいから黙ってそのまま!動くなよ!」
「はあ?」

櫛を通され、スプレーだのワックスだのをつけられる。
髪は梳かすぐらいであまり弄ったことがないのだが、橋谷の手によってガチガチにセットされてしまう。
それらはすぐに終わったらしく、今度は立たせられて女子に服を押し付けられた。

「これは?」
「借りてきた!松浦君は今日一日コレ着てて!」
「??」

まったく意味が分からず、とりあえずクラスメイトに更衣室に連行された。
それらを広げてみれば、スーツ?というか、給仕服のようなものだった。結構しっかりした作りだ。

「バーテンのバイトしてる兄貴から借りてきたんだけど、身長同じくらいだし合うかと思ってさ」
「へえ、これがバーテンダーの服なのか」

倉田に言われるがままに袖を通すと、やや腰周りが余るが僕の体格に合っていた。

ベストにクロスタイまでつけるとはかなり本格的だ。それらを身につけて教室に戻ると、やけに喜ばれた。恥ずかしかったが、よく見ると僕の他に三人ほど同じような格好をしていた。
女子はメイド服率が上がり、全員がばっちりメイクで昨日よりもクラス全体が華やかだ。

「さ、松浦君、今日はバリバリ働いてもらうわよ!」
「いや、僕の当番は11時からで……」
「いいのいいの!そこに座って適当に笑ってくれてるだけでいいから!あ、11時の当番は受付と交代ってことにしたから!」

そう指示されたのは、視聴覚室辺りから持ってきたであろう機能椅子。少しだけ座り心地がいいのだ。

要するに僕はこの教室から動かずに受け付け業務の補佐をしろということか。
だったらこの服は他の男子に譲るべきだったのではないかと思ったが、着てしまったものはしょうがない。

立ち仕事を交代してくれた橋谷には悪いが、受付も忙しかったと聞いているし僕は割り振られた仕事をするだけだ。



そのうちに、さっそくクラスに客が入り始めた。
僕は受付の後ろでぼんやりと座ってそれを眺めていたが、客と目が合うのでその度に印象を悪くしないよう笑みを作った。

それにしても聞いていた以上の盛況ぶりだ。
ただ座っているだけだと申し訳ないので、途中からはつり銭を用意したりラリー達成した人のためにチケットの入った抽選箱を持って差し出したりと細かい手伝いをしていた。

「あのぉ〜……お名前は何ていうんですか?」
「あなたの執事です、お嬢様」
「一緒に写真とってもらえますかぁ?」
「申し訳ありません。あなたの心のアルバムに収めておいて下さい」

こう聞かれたらこう答えろとあらかじめ指導されてたのでその通りにする。
クラス全体でなかなか演技に熱が入っている。僕は見事な棒読みだったが。

11時を回った頃になっても、ずっと手伝ってくれてるのだからそのままでいいと言われ、簡単な雑用をしていた。
この調子だとまた午前中で用意したチケットが終わってしまうかもしれない。

すると、ざわつきが一層大きくなった。

「なんだよこの盛り上がり!ありえねえ!」
「なんなの〜、芸能人でも来てるの〜?」
「マジですごいねぇ。紘人先輩もう配置されてんのかな」

聞き覚えのある声に僕はハッと顔を上げた。やたらと華のある三人組に周囲の視線が集まる。

透と吉住君と園田君だ。
透はまだフランクフルト屋のTシャツを着ていなかったが、髪型は昨日と同じように前髪を上げていた。頭頂部で複雑に編みこんでいてお洒落だ。




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