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何故だか親しげな視線を送られて戸惑う。彼は本当に男前だ。

「じゃあ、俺はこれで。そろそろバスケ部の方に行かないとどやされそうなんでな」

のんびりそう言った立花先輩は、バスケ部には全然顔を出していないのだろうか?たしかにあの行列に立花先輩が加わったらさらに大変なことになりそうだ。

すれ違うときに瑞葉がぎこちなく礼をした。

社会部は見学者もほとんどいないようで部員達だけでまったりしている状況だ。
なんだか狐につままれた気分でしばらくぽかんとしていると、瑞葉が僕の袖を引いた。

「ひろ君、行こ?」
「あ、ああ……そうだな」
「あれ、もう行くの?もっとゆっくり見てけよ松浦。お前は制作に関わってないから見てないだろーけど、今年の展示も力作だぞ〜」
「ま、また後でゆっくり見に来る。今は人が多くて……」
「あーそっか。じゃあまたな〜」

ぐいぐいと瑞葉に引っ張られて教室の外に出る。
どこに行くつもりなのか、彼女はだんだんひと気がない方へと進んでいた。

「み、瑞葉?」

彼女に導かれるままに歩いていく。やがてひと気のない廊下で彼女は足を止めた。

「瑞葉?」
「……あのね、ひろ君」

彼女が僕に向き直って見上げてきた。
真剣なその表情に気圧されてしまう。僕を見つめる真っ直ぐな瞳と、艶のあるふっくらとした唇にもどきりとした。

「私……夏休みに立花先輩と部活の時間が一緒だったときにね」
「……?」
「呼び出されて……告白されたの」

その言葉を聞いたとき、僕の耳の奥が綿でも詰められたみたいに一瞬塞がった気がした。

「な、何て……?」
「好きだから、付き合ってほしいって」

ふっと、肩の力が抜けた。脱力したと言った方がいいかもしれない。

「……それで、瑞葉はなんて答えたんだ?」
「ちょっと待ってくださいって……」

手が震える。
瑞葉の言葉、一言一言がまるで現実感のないドラマの芝居のように聞こえた。

「どう……するんだ?」
「わかんない。すごく優しい人だとは思うけどあんまり喋ったこともないし、先輩だってこれから受験で忙しくなるし……」

瑞葉は、僕に何て答えるのを期待してるのだろう。

「どうしよう、ひろ君?」

僕に、どんな言葉を期待して、それを打ち明けたのだろう。
彼女らしくない、曖昧でグレーな言葉。
今までなにもかも、彼女自身が決断してきた。それを、どうしてここで僕に委ねるんだろう。


僕はゆっくりと口を開いた。





――帰り道は雨が降っていた。

昼過ぎから曇ってはいたが、瑞葉と別れてすぐに小雨が降り出した。まだ校内は賑わっていたがとても祭の雰囲気に馴染める気がせずに帰宅した。

驚いたような瑞葉の表情。それに微笑む僕。

なによりショックだったのは、そんな状況に思ったより衝撃を受けていなかったこと。
むしろ、少しだけホッとしていた。

家に帰り着くと、着信が一件、メールが三件届いていた。着信は透からで、メールの二件は司狼、もう一件は透。
僕はどちらも見ずにベッドに倒れこんだ。





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