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僕のクラスをあとにして、瑞葉が行きたいと言っている場所を回ることにした。

自作のジェットコースターを出し物にしているクラスがあると聞いて瑞葉が目を輝かせてたが、僕は丁重にお断りした。
他にもダンボールの迷路や、占いの館、定番のお化け屋敷など行ってみたが、回りきれないほどだった。

「ねえ、ひろ君はどこか行きたいところある?」
「そうだな……社会部がどうなってるか気になるな」
「あ、じゃあ行ってみよっか!」

瑞葉と並んで校舎を歩く。僕達は周囲からどういう風に見られているだろう。そんなことを考えると足元がふわふわとした気持ちになった。
しかしその途中で、透と吉住君たちの一団に出会った。

「透?」
「あっ、せんぱ……」

透が僕の方へ来ようとしてぴたりと動きを止める。なので僕が彼の方に歩いていって伺った。
透は珍しく無表情で瑞葉に軽く会釈をした。

「あの行列はすごかったな。お疲れさま」
「うんそー、おかげでもう今日の分は終わっちゃった。完売御礼!ってやつ。んで、これから先輩のクラス行こうと思って。そろそろ当番の時間だよね?」
「ああそういえば、うちのクラスも終わってるぞ」
「へ!?」

先程聞いた事情を話すと、透が不機嫌そうに表情をしかめた。

「また明日はやってるから。その時来るといいよ」
「……そうする」

友人といたところを邪魔されて不愉快だったのだろうか。透の雰囲気がいつもと違ったので僕は別れの挨拶をして早々にその場を離れることにした。
瑞葉もぺこりとお辞儀して僕の隣を歩く。

彼らから距離が離れ、階段を上っているときに瑞葉がぽつりと口を開いた。

「――なんか、秋葉君ってイメージと違うね」
「ん?」
「ゆっこと一緒に見てたときは、いつもニコニコしててアイドル〜って感じだったと思うけど」

普段はそうなのだが。やはりあんなところで僕が声をかけたのがいけなかったんだろう。
いつでも僕を歓迎してくれた透のそっけない態度に、僕は正直に言って落胆していた。やはり上級生と下級生の一線は守るべきなのだ。

「友人といたところを邪魔されて気分が良くなかったのかもしれないな」
「うーん……そんな感じには見えなかったけど」


話しているうちに社会部の展示室である教室に着いた。やけにざわついている。部員達が集合してるのだろうか。

戸を開けると、その騒ぎの元が判明した。
その中心にいたのは、バスケ部主将の立花先輩だった。
どうして彼がここに?と思ったら隣の瑞葉も動揺したように僕の服の裾を握ってきた。

「……西村?」
「立花先輩……」

立花先輩は、瑞葉に目を向けて声をかけてきた。

「なんだ瑞葉。先輩と知り合いなのか?」
「う、うん。委員会が一緒で……」

というよりどうして彼がここにいるのか、そっちの方が気になった。
その疑問は僕を社会部に誘った張本人である二階堂が解決してくれた。

「おー松浦!様子見に来たのか?ちょうどよかった、これで部員全員集合だな!」
「……部員?」
「そうそう。掛け持ちのバスケ部が忙しくてあんまり来れない立花先輩も来てくれたし、幽霊部員のお前も来たし、全員揃うなんてレアだよな!」
「は?」

素っ頓狂な声で返してしまうと、二階堂はしょうがないなあという顔をした。

「あれ、もしかして知らなかった?立花先輩、社会部の副部長だぜ」
「は!?」

知らなかった。入部のときに紹介されたのは部長だけで、それ以上知る必要もなかったのだが、まさか一年越しで衝撃の事実を知るとは。
畑違いの文化部のことで瑞葉も知らなかったようで僕と一緒に驚いている。

立花先輩は僕の方に向き直り、かすかに笑った。

「去年も今年も、丁寧な資料提出助かった。松浦」
「え、あ、いえ……」
「松浦はそういう、研究方面に向いているのかもな。まとめられたレポートを読んだが、視点が多角的で面白かった」
「はぁ……ありがとうございます」

突然褒められてくすぐったいような落ち着かない気持ちになった。

ああ、だから今日立花先輩が声をかけてきたんだな。僕は展示物の制作には関わっていないから知らなかったが、立花先輩は僕の集めた資料を読んで僕のことを知っていたのだろう。





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