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思ったより時間をロスしたらしくすでに昼時を回ってしまい、昼食を食べるために剣道部の模擬店へと向かった。

「ああ、紘人。どうだった、回れたか?」
「いや……人ごみに捕まって全然」
「午後は瑞葉と回るんだって?さっきあいつこっちに顔出したぞ」
「そうか」

瑞葉と一緒に回ることはもう文化祭前に話していたことだった。勇気を出して「二人で」と駄目元で誘ってみたらあっさりOKの返事をもらえた。
夏休みや、ここのところほとんど会っていなかったから久しぶりにゆっくり話したかった。

「何で俺を誘わないんだよ?」
「きみは今日、委員会と部活とその他色々で忙しいだろう」
「いやまあ、そうなんだけどよ……」
「明日な」

こちらも事前に、司狼にごり押しされて明日の午後は司狼と二人で回ることになっていた。

剣道部の面々と特設テントの下で、焼きそばやら他の友人がどこからか調達してきたありとあらゆる模擬店の食料を並べた。
もう場所取りをしていてくれたらしくすでに司狼と僕以外は揃っていた。

「あれ、松浦。それフランクフルトじゃん。行ったのか?」
「ああ。知人からチケットをもらったから」
「すっげえ列じゃなかった?俺あれ見ただけで断念したわ」

木崎が苦笑しながら空になった紙コップの飲み口を齧る。彼の癖だ。

「すごかったな。あれで午前中つぶれた」
「だよな〜。よく並んだな、お前」
「フランクフルトって何部?」
「たしかバスケ部だよ。なあ松浦」

石本がそう言った途端、司狼がいきなり僕の手からフランクフルトを強奪し、齧りついた。一口で半分ほどなくなってしまったそれに呆然とする。
他の友人たちも唖然としていた。

「真田そんなに腹減ってたのかよ……」
「司狼……ほしいならせめて僕に一言断ってくれ」
「……冷えててまじぃ」

たしかに受け取ってからそれなりに時間が経ってるのだから仕方がない。まずいと言いつつ、司狼はそれをぺろりと平らげてしまった。
食べてみたかったから残念だ。僕は空腹を焼きそばで満たした。


昼食のあと、司狼たちと別れて瑞葉にメールを打った。
彼女も昼食を終えて自分の教室で待ってるとのことだ。

さっそく2年E組へと向かう。
彼女のクラスは舞台でダンスを披露するので教室は使用されておらず、クラスメイト達が思い思いにたむろっていた。

僕が顔を出すと、教室内がざわっとした。少し怯んでしまうがすぐに瑞葉が僕に気付いてくれたので安堵する。

「瑞葉」
「あっ、ひろ君!」
「大丈夫か?」
「うんへーき!行こっか」

瑞葉は一緒にいた友人達に手を振って僕の隣に並んだ。
彼女はにまにまと笑っていてご機嫌な様子だ。

「どうした。機嫌が良さそうだな」
「だって王子様みたいなひろ君と一緒にいられるの嬉しい」
「ああ……もしかしてこの格好か?着替えてくればよかったな。時間がなくて」
「えー着替えないで!せっかく似合ってるのにぃ」

そう言われてもただの白シャツと黒のパンツで、普段の制服姿とそう変わらないような気がする。

「どこから回る?」
「そうだなぁ……私、ひろ君のクラス見たい!」
「そうだな。行ってみよう」

あれからどうなったのか僕も気になる。盛況だといいが。
しかし意外な事態に僕も瑞葉もあっけに取られた。

「……終わり?」
「そうなんだよ!もうすごかったんだぜ!?あっという間に用意したチケット終わったし」

興奮気味にクラスメイトにそう言われ僕は瑞葉と顔を見合わせた。

「まあウチには強力な宣伝塔がいるからな〜」
「もーヤバかった!あの人いないんですかーってガンガン聞かれまくったし」
「そうなのか……」

誰かは分からないがこの出し物に貢献した中心人物に内心お疲れ様と労いを送る。
すると隣の瑞葉が拗ねたような声を上げた。

「え〜残念!私ラリーやりたかったのにぃ……」
「明日もやるからその時来いよ、西村」
「むぅ……じゃあゆっことあゆみん連れてリベンジする!」
「早めに来てねー!そういうわけだから松浦君、午後の当番ナシになったから」
「そうか。なんだか悪いな」
「いやいや、ある意味松浦が一番働いてくれたから!」
「?」

とにかく僕は本格的に今日の拘束時間がなくなったので、瑞葉とゆっくりできることになった。




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