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まず訪れたのは瑞葉の所属するテニス部の模擬店だ。
チュロスを売っているらしい。手軽なスナック菓子なので結構盛況だ。
僕が顔を出すと、奥に引っ込んでた瑞葉がすぐに出てきた。
「あーひろ君どうしたのその服!クラスの出し物?カッコイイ〜!」
「そうかな」
「うん、王子様って感じ!」
手放しに褒められて僕は照れた。ただ白いシャツに黒を合わせただけでフォーマルな装いになるのは不思議だ。
いつの間にか隣にゆっこさんがいる。瑞葉の手をぎゅっと握りながら僕を見上げてきた。
「あの……松浦君、ちょっと聞いていい?」
「何?」
「秋葉君と仲いいの?」
「ん……まあ、成り行きで」
そう言うとゆっこさんがポッと頬を染めた。
「えっとえっと……秋葉君の好きなものとか、色々知りたいんだけど、知ってるかな?」
「彼に直接聞いた方がいいんじゃないか。僕はそういうの、よく分からないから」
「で、できないよぉ〜……」
眉尻を下げてゆっこさんが弱気な声を上げる。
いつも人に囲まれている透のことだ、きっと聞きにくいに違いない。でも僕は、あまりそういうことに協力したくなかった。
「透は優しいから、聞けばきっと教えてくれると思う」
「ほらゆっこ!断られたらしつこくしないって約束でしょ?」
「うん……」
「今日午前中は部活の模擬店の当番だって言ってたから、今行けば会えるんじゃないか」
「だって!あとで一緒に行ってみよ?」
食券と引き換えにチュロスを受け取って、僕は瑞葉と別れた。
次に向かったのは司狼のところだ。
剣道部は焼きそばを売っている。司狼目当てらしい女生徒が多く、なかなか会計にたどり着けなかった。
「お、来たか紘人!」
「ずいぶん盛況だな」
「まあな。お前昼メシはどうする?」
「まだ決めてない」
「だったら一通り回ってからまた来いよ。俺達と一緒に食おうぜ。まあ焼きそばだけどな」
「ああ、そうしようかな」
食券はまだ引き換えはしないで、昼に取っておく事にする。
約束をして司狼とは別れた。
次は透のところへ行こうと思った。しかし人波に流されて進行方向を変えざるを得なくなった。
途中スタンプ当番のクラスメイトに会ったので頑張れと声をかけると、礼が返ってきた。
眼鏡を捨てて以来、クラスメイトとも段々とコミュニケーションが取れるようになってきている。
きっと壁を作っていたのは僕の方だった。それを人のせいにしてずっと逃げていたのだ。
そんな簡単なことを認めてしまえば、投げかけられる視線もあまり怖くなくなっていた。
そういう意味では、この文化祭はいい機会だった。クラス内で連絡を密にしなければならないから、それが皆と話をする切っ掛けになれた。
僕が礼儀正しくすれば誰もが好意的だったし、小中学の時の様に「ガイジン」「オカマ」などと悪質な言葉でからかったりするような幼稚な人間はいなかった。
色々と考えながら歩いていたら、ようやくバスケ部模擬店のある体育館内に辿りついた。
……は、いいのだが、先が見えなかった。
なにやら延々と列ができていて「最後尾こちらでーす」というダミ声が聞こえてくる。
バスケ部フランクフルト店はすごい行列だった。
仕方なく列の最後に並ぶ。見事に女性だらけだ。在校生のみならず他校生が多いのは、きっと練習試合とかで彼らのことを知ったからなのだろう。
列の進みは決して遅くないのだが、如何せん数が多い。そしてどんどん後ろに列ができる。
司狼のところも大概すごかったが、一体我が校のバスケ部はどうなってるんだ。
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