文化祭一日目
そして九月中旬。あっという間に文化祭当日がやってきた。
前夜祭では生徒会バンドによる大盛り上がりのミニコンサートに始まり、全員参加の○×クイズや、先生方の寸劇など、どれも趣向が凝らされていて面白かった。
というか司狼ってギター弾けたんだな……。音痴なのに意外だ。
前夜祭前に透に捕まって、結局吉住君と園田君と、他の友人達も交えたメンバーで参加することになった。
何故だかわからないが、皆、上級生の僕に良くしてくれて嬉しかった。
そして文化祭一日目――。
クラスの出し物の僕の当番は、午前一番だった。人の少ないうちに当番が終わるのはありがたい。
あとで知らされたことには、この出し物は『ご奉仕スタンプラリー』という催しだった。
その内容は、クラスメイトは白と黒の揃いの衣装を着て、校内に迷い込んだ旦那様・お嬢様をご案内するというコンセプトのもとに役を演じないといけないのだという。
参加料は100円。スタンプを全部集めるとくじ引きのように当日模擬店の食券が一枚引ける。うまくすると参加料以上の食券が手に入るというギャンブル性は面白いなと思った。
50円分のチケットを運悪く引いてしまった人には残念賞として駄菓子をひとつプレゼントする心配りも忘れない。
クラスの中心メンバーが運動部で、チケットを捌くのを兼ねて他の運動部にも掛け合って金券を集めたらしい。もちろん予算内で。
集客が少なく食券が余ったら、それらは全部クラス全員の腹に収めようという話になっている。
男子は白いシャツに黒いリボンタイを付け、黒のスラックスを合わせる。女子はパンツスーツかスカートのどちらでも良くて、メイド服を着ている子もいた。
校舎内に配置されると、宣伝も兼ねるので役を演じきろ!と厳命されている。ポイントは全部で七箇所で、三十分交代。
ちなみに在校生はスタンプカードだけ渡され、黒板に張り出された校内地図のポイントを覚えて出発する。校外の一般人には校内地図のコピーが渡される。
スタンプポイントに立っているクラスメイトに他の場所のヒントを聞くのはアリ。ただし次の場所の一箇所しか教えられないというルール。
少ない予算内でなかなかよく考えられている企画だった。
僕の持ち場は番号にして3番ポイントの三年生教室へ続く廊下。昇降口から近く、階段と渡り廊下がぶつかる交差点のような場所で人の通りが多い。
通りがかりの生徒にすごく見られたが、恥を忍んでただ微笑む。
壁に『2年C組 ご奉仕スタンプラリー☆3番ポイント!』とけばけばしい手書きのポスターが貼ってあるので、特に声を上げて宣伝しなくてもいいと言われている。
というより、僕はただ笑って立ってろと命令されているのだ。接客の類は苦手なので非常に助かる。
配置が始まって少し待っていると、他校生らしき女子二人連れがおずおずと僕に話しかけてきた。
「あ、あのー……スタンプラリーってなんですか?」
「2年C組でご案内してます。ぜひご参加ください、お嬢様」
何度も練習した台詞とともに、また微笑む。すると女子達は小さくキャーと言って走って行ってしまった。C組の方に行ったから集客成功だろうか?
今度はそれを見たらしい男子生徒が話しかけてくる。
「な、何か景品とか、もらえるんですか?」
「もちろんです。ぜひご参加ください、旦那様」
そう言ってまた微笑む。男子生徒は真っ赤になって礼を述べるとぎくしゃくと去っていった。
待っていると、ちらほらとスタンプラリーに参加してくれている客が増え始めた。
先程の他校生の女子達や男子生徒も参加してくれたので、スタンプを押してにこやかに送り出した。
立ちっ放しの三十分は結構疲れる。
そろそろ交代か?と時計を見たところで目の前にぬっと人影が飛び込んできた。
訝しげに見上げると、それはバスケ部主将、立花先輩だった。
彼はじっと僕を見下ろしてきた。何を言うでもなくただそうしてるので妙な威圧感がある。
その異様な雰囲気に耐え切れず僕の方から口を開いた。
「……どうされましたか、旦那様」
「スタンプラリー……」
「はい?」
「頑張れよ」
「はぁ……」
思わず素に戻って返答すると、立花先輩はふっと顔をそらしてその場を去った。全く意味が分からないが、とにかく激励されたらしい。
混乱してるうちに次の交代のクラスメイトがやってきて、無事にお役御免となった。
一日目は透と当番の時間が被ったので、彼は二日目に来ることになっている。
クラスの代表者に交代の旨を告げてリボンタイを解いた。僕はこれからチケット片手に校内巡りをする。
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