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そして九月に入り、文化祭が迫っていた。

いつものように昼休みに視聴覚室で透と過ごしていた――のだが、一週間前から変化があった。
透の友人が顔を出すようになったのだ。

どうも教室にいると透と仲良くなりたい女子達が押しかけてくるのが面倒で、昼の数分はここに逃げ込んできていたらしい。

うまく言い訳して逃げてきたのだが、ついに突き止められてしまったのだという。
というより二年生の僕とどういう風に知り合ったのか問い詰められ、ずっとのらりくらりかわしていたのが発端でこの視聴覚室のことがバレたとのことだ。

一緒してもいいですか?と聞かれたら否とは言えず、頷いた。日によって人数は違うが、今日は吉住君と園田君だった。どちらもバスケ部仲間だという。
吉住君は天然パーマの大柄な、頼れる兄貴風の人が良さそうな男子。園田君はきりりとした整った顔立ちの外見に似合わず、ふわふわとした喋り方が特徴の男子。
二人とも僕より背が高く、並ぶと見下ろされてしまう。

「先輩のクラス、出し物は何すんの?」
「たしかスタンプラリー?とかいうのになってたな」
「なんですかソレ」
「えっと、校舎内にスタンプを持ったクラスメイトを配置して、客がそのスタンプを集めて……とか、そういうのだった気がする」

それの何が楽しいのかよく分からないが皆が盛り上がっていたので面白い企画なのだろう。
透がそれを聞いて含みのある表情でニヤリと笑った。

「紘人先輩は当番いつ?」
「まだ決まってない」
「じゃあ決まったら教えて?俺見に行くから」
「構わないが……スタンプを集めるだけだぞ?」
「楽しそうじゃん?」

意外とノリノリの透が笑う。何を想像したのか、わははと友人達も笑っている。

「そういえば、きみたちのクラスは?」
「研究発表だよん。うちのクラス運動部と吹奏楽部多いから、部活の出し物の方が忙しくてそんな感じになっちゃった」
「バスケ部は何の模擬店を出すんだ?」
「うちは毎年フランクフルトだって。もう機材借りるとことか仕入先も例年決まってるみたい」
「へえ」
「チケットあげるから先輩来てね?」

透が机に腕を置いてそこに顎を乗せながら上目遣いで言ってきたので、僕は頷いた。そんな何げない姿も格好良い。
その横から吉住君が唐突に口を開いた。

「あれ、先輩は部活入ってないんですか?」
「一応入ってる」
「何部ですか?」
「社会部だ」

そう答えると、全員きょとんとした顔になった。園田君が首を傾げる。

「社会、部?って何するところすか〜?」
「毎年一つのテーマを決めて研究した結果をまとめて展示するんだが――」
「はぁ……」
「今年は……えっと、市のリサイクルの実態とか、ゴミ問題とか……すまない、資料だけ提供して僕は制作にあまり関与してなくて」
「な、なんかすげーっすねぇ。部員いるんですか〜?」
「結構多いと聞いてる。僕は文化祭前くらいしか顔を出さないが……20人はいるはずだ」
「多っ!思ったより人気じゃん社会部!」

透たちが声を上げて笑う。
意外だと思われるがたしかに部員の多い謎の部活だ。普段は理科教室を根城に漫画を読んだり菓子を食べてたりする。その緩い活動方針が人気なのかもしれない。

「先輩は何で社会部に入ったの?」
「一年のときクラスの友人に頼まれて、人数あわせで。僕はほとんど幽霊部員なんだ」

いざ入ってみたら部員も多くて活動内容も厳しくないので真面目に活動するのをやめた。
それでも文化祭には協力するつもりでいたので、今はクラスが離れてしまった友人と示し合わせて活動している。
時々顔を出すと温かく迎えてくれるのはありがたい。

「展示って何するの?」
「空き教室に模造紙とかで展示するってことくらしかわからない。当日ちょっと顔を出して、あとは本当に何もやってなくて……」
「へーそうなんだ。俺、なんかそっちにも興味出てきた」
「何言ってんだよ透!OBも様子見に来るんだから抜け出すなよ!」
「当番はちゃんとやるって」

へらへらと透が軽薄な笑みを浮かべた。吉住君と園田君はなにやら疑っているようだ。

「この学校、前夜祭とか後夜祭も派手なんでしょ?楽しみ」
「そうかもしれないな。去年はダンスパーティーとか告白大会とかやってたな……」
「うおーマジすか!ちょー盛り上がるじゃないですか〜!」
「今年はどうだったかな。たしか司狼が実行委員に入ってたから聞いたんだが――えっと、生徒会のバンドとか、仮装コンテストとか?」
「えぇ〜つまんない〜!もっと青春ぽいことしたい〜!」
「同感。今年も告白大会でいいじゃねーかよ。なあ透?」
「えー俺は仮装コンテストの方が楽しそうだけど?」

園田君は恋愛話だとかそういう色恋沙汰が好きなようだ。吉住君もその手の話題によく乗っているので、実に男子高校生らしい良いコンビだと思う。

僕は文化祭のそういうものはたいてい不参加だから何でも構わない。
一応全員参加ということになってるから隅の方で見てはいるが、盛り上がりには欠ける。

去年は瑞葉と一緒に見ていたが、今年は彼女も実行委員だと言っていたから僕は一人で参加することになるだろう。

まだ見ぬ高校初参加の文化祭に思いを馳せ、後輩達があれこれと楽しそうに相談しているところを見るのは良いなと思った。

楽しい思い出ができればいい、と願った。






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