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「透くんに近づかないでもらえます?ていうか、迷惑してるんで」
「は……?」

言われていること全てに理解が追いつかなくて、ぽかんとしてしまう。
迷惑?それは、透がそう言ったのだろうか。それとも部員がそう思っているという意味だろうか。

「わざとらしいダサい眼鏡して、目障りなんですよね」

天羽君に嘲笑されて僕は真っ赤になった。
人の目を避けるための眼鏡をそういう風に言われ、無性に恥ずかしかった。僕の鎧のようなものだったから。

彼のように可愛らしい人だったらそんな必要もないのかもしれない。でも僕は外見がひどくコンプレックスで、青い瞳すら隠してしまいたかった。
コンタクトレンズはどうしても合わなかったから、眼鏡で誤魔化した。でも透は僕の目を見て「きれい」だと言ってくれた。真っ直ぐに僕を見ながら。

そんな風に言ってくれたのは家族以外に彼だけだった。
だから、すごく嬉しくて――浮かれてた。
そういうものを全部見抜かれた気がして何も反論できなかった。

黙り込む僕を見てどう思ったか、天羽君は微笑みながら踵を返した。


じわじわという蝉の声が耳の奥で反響した。じっとりと手の平に汗をかく。ツンと鼻の奥が痛くなった。



「……先輩?」

呼ばれてはっと顔を上げる。
そこには困惑顔の透がいた。シャワーでも浴びてきたのか、汗もかいておらずさっぱりとしている。

僕は別に彼に付きまとったわけではない。でも、傍から見ればそうなるのかもしれない。
バスケ部の人気者でアイドルの透に付きまとう鬱陶しい先輩。そう、見えるのかもしれない。

「紘人先輩?ボーっとしてどうしたの?」
「あ、いや……その、お疲れ」
「うん。先輩が見てると思って張り切っちゃった。俺カッコ良かった?」

そう言って本当に格好良く笑う透。その笑顔が眩しくて視線をそらした。

「そうだな」
「ちょっともー、相変わらずクールなんだから。俺のこともっと褒めてよ。あ、そだ、先輩このあと時間ある?久しぶりだしちょっと話さない?」
「い、いや、このあと……その、用事があるから」

咄嗟に嘘をついてしまった。
用事なんて何もない。でも、これ以上彼の前にもいられなかった。天羽君に言われた『迷惑』という言葉が僕をちくりと刺したから。

透がふっと真剣な表情をしたのでドキリとした。

「……先輩、何かあった?」
「べ、別に何も……」
「ふうん……」

僕の顔を覗き込んで疑っている。お見通しだと言わんばかりに。
このまま泣いてしまいそうで、僕は俯いて土産を彼に差し出した。

「これ、約束の土産だから」
「あ!ありがとーわざわざ。嬉しい」
「じゃあ僕はこれで……」

その場を立ち去ろうとした僕の手首を透が握りこんだ。思いのほか強い力で痛みが走った。

「――待って先輩。やっぱり何かあった?」
「何でもない。早く、行かないと」
「そっか……」

透の手が放される。
掴まれた部分がじんじんと痺れたが、体温が遠ざかって寂しくも思った。

「じゃあまた、学校で……」

僕の別れの言葉に透は返事をしなかった。
最後にちらりと彼を見たが明らかな不満顔だった。

「また学校で」だなんて迷惑だったろうか。先輩という地位にかこつけて透を縛り付けていやしなかっただろうか。

己の失態をあれこれと思い出してはグラグラとした。もともとそんなに親しい間柄でもないのに、何を付け上がっていたのだろう。きっと彼のファンにやっかまれている。
僕は悶々としながらその日を過ごした。





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