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イギリスに行っている間、観光地などを通ったときはできるだけ写真を撮って透に送った。ほとんどブレてばっかりだったが。
あとは、母の実家の庭は見事だから、それも送った。

バスケの練習で大変だと思うのだが彼はひとつひとつきちんと返信してくれて、そのたびに僕は嬉しくなった。



丸七日のイギリス旅行から帰ってきてすぐ、司狼から連絡があった。
明日大会があるから見に来いとのことだった。旅行後でヘトヘトだから嫌だと断ったのだが、どうでも来いと頑なに言われて折れた。
ついでに土産でも持って行けばいいかと諦め気味になる。

試合会場は南校だというので、翌日は電車に乗って出かけた。

夏真っ盛りでうだるような暑さだ。初めて来る校舎なので迷ったが、道場の方に人だかりができていたのでなんとかたどり着けた。

というか、なんとなく既視感……。女生徒が群がってキャーキャー言っている。真田くーんとか、真田せんぱーいとか、黄色い声が聞こえる。
ああ、透の時と同じだ。

試合会場に着いた時にはすでに試合も進んでおり、ちょうど司狼とその対戦相手が構えていたところだった。
勝負は一瞬で決した。あっけなさ過ぎて、今ので終わり?と首を傾げたほどだ。司狼の圧勝。

キャアアア!と歓声が上がる。ほとんど悲鳴のようなそれに、耳の奥がキンキンとした。
そして司狼は大将だったので、今ので試合終了だ。

終わりの礼をしたあと防具を脱いだ司狼は女生徒に囲まれていた。
ぼんやりとその様を見ていると、司狼が僕に気づいて手招きしてきた。

「紘人!」
「勝ってたな。おめでとう」
「見てたのか?なかなか来ないから今日は来ないのかと思ってた」
「まあそう思ったんだがな……。これ、土産」
「お、悪いな。ていうかまたマーマイトじゃねえよな?あれすげー味したぜ」
「違う。今回はマスタードだ」
「また消えものじゃねーか。たまには香水とか買って来いよ。俺に合いそうなやつ」
「僕に選べっていうのか?無茶言うな」

高校生が香水をプレゼントするなんてレベルが高すぎて無理だ。なにがどういいのかもわからない。
しかし司狼はいつもの軽口だったらしく笑ってサンキューと土産の紙袋を受け取った。

「ん、袋二つあるけど?」
「それは瑞葉の分だ。悪いが彼女に渡しておいてくれ。近所だろう」
「いいけどよ……自分で渡さなくていいのか?」
「……いや、いい。メールは打っておくから。じゃ、僕はこれで」
「おいなんだよ、打ち上げ一緒に行こうぜ」
「昨日も言ったが僕は疲れてるんだ。もう家に帰って休みたい。木崎たちによろしくな」
「マジかよ……」
「あと、彼女達もきみと話したそうにしてるし」

僕と司狼が話してる間、彼のファンだと思しき女生徒達が一歩引いて僕達を静観している。
司狼は深く溜息を吐いた。

「また電話する、紘人」
「わかった」

手を振って早々にその場を離れた。なんだかひそひそとこちらを見て言われているが、司狼と一緒にいるといつものことだ。
ようやく家に帰り着いて一息ついた頃、メールが届いた。
もしかして司狼かと思ったが、それは透だった。

『先輩もう日本帰ってきた?』
『ああ』
『おかえり!写真楽しかったよん。もう届かないと思うと寂しいなぁ。俺の毎日の楽しみだったのに』

泣き顔の絵文字が添えられてて口元が綻ぶ。
こういう風に素直に喜怒哀楽を表現する透は羨ましくもある。

『毎日部活大変だろう。おつかれさま』
『へーきだよ〜。でも先輩が見に来てくれたらもっと頑張れるカモ』

語尾にハートマークが三つ並ぶ文章に、どこの女子だと言いたくなった。

『そうだ。旅行土産を渡したいんだがいつ練習してる?本当に見に行ってもいい?』

途切れなく続いていたメールが止まる。ん?なにか用事でもあったか。
しかしすぐにかかってきた電話にメールがやんだ理由を知る。文字を打つのが面倒になったらしい。

『もしもし!』
「ああ、久しぶり」
『久しぶり〜っていうか、マジ?先輩マジ来る?』
「言っておいてなんだが部外者が見学に行ってもいいのか?僕は文化部だからそういう決まり事とか知らなくて……」
『平気平気!てか、ほとんど毎日見に来てる子いるし』

それはすごい。この炎天下の中よく頑張る子がいるんだな。熱心なファンに頭が下がる。

『ほんとは気が散るから良くないんだけどね〜。でもうちの学校の子なら結構スルーっていうか、うるさくしないって約束で見学オッケーにしてるんだって。なんか、立花先輩のときそういうので色々あったみたいで……』
「ああ、あの部長っていう?」
『そー。だから大丈夫。つか、終わる頃に来てくれればいいよ?その方が時間取れるし』
「きみが練習してるところを見たいから、見ながら終わるのを待ってる」

ゴン、と電話の向こうで鈍い音がした。何かぶつかったのだろうか。

「透?」
『ご、ごめ……なんでもない。先輩って天然って言われない?』
「は?言われたことはないが」
『そっか……あ、うんなんでもない。こっちの話。そーね、うん、練習は日曜以外ここんとこ毎日やってるから、明日でもいいよ?あ、でも先輩旅行帰ってきたばっかで疲れてるかー』
「いや、大丈夫だ。明日でいいなら、そうしたい」

ふ、と通話口で笑い声がかすかに漏れた音がする。

『うん、そっか。じゃあ待ってる』

その言葉がすごく優しく、そして甘い声音で言われ、僕は真っ赤になった。
電話で良かった。こんな顔、とてもじゃないが見せられない。

練習時間を教えてもらってから通話を切る。
僕はまだ顔の熱が引いてなかった。






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