僕たちの夏休み



そして球技大会の後はあっという間に夏休みに入った。

夏休みの課題は毎年早めにやっておくことにしているので、気持ちが途切れないうちに始めていた。
透からは夏休み初日からメールが来ていたので、あまり離れている気がしなかった。

勉強に飽きたのでコーヒーを淹れて、何をするでもなくフローリングの床に転がってうとうとしているとスマホが震えた。手に取ると、透からメールが来ていた。

『先輩なにしてた?』

特に何も、と返すとすぐに返事が返ってきた。

『電話していい?』

了承の返事を出す前に着信がかかってくる。驚いて通話ボタンを押した。
メールのやりとりは結構していたが、電話は初めてだった。

「も……もしもし?」
『あ、出てくれた』
「驚いた……」
『ごめんね、返事待たなくて。あのさ、来週の土曜日って先輩暇?バスケの地区大会があって、俺出られることになったんだ。ベンチだけどさ』

よかったら見に来ない?と聞かれて卓上カレンダーを確認した。
来週の土曜……カレンダーには赤い丸印がつけてある。

「……すまない。その日からしばらく家族と出かけることになってて」
『あれ、実家に帰省?』
「いや、母の実家に行くことになってるんだ」
『へー……ちなみにどこ?』
「イギリス」

通話口の向こうで咽る音がした。なにかおかしいことを言ってしまったのだろうか。

『先輩ってやっぱハーフなの?』
「いや……祖父がスウェーデン人で、母がイギリスとドイツのハーフだから混血と言った方が早いな」
『でもそっちの血が流れてるんだ。なんかカッコイイね?』
「かっこいいかどうかは分からないが。そういうわけで残念だが……」
『んーん。しょうがないね。また別の試合に応援に来て?』
「ああ。……そうだ、よければ土産を買ってくるが欲しいものはあるか?」
『えっ!?うーん……いきなり言われても思いつかないけど……そうだなぁ』

電話越しに聞く透の声は少し掠れてて色っぽい。直に聞く声は爽やかな気がするが、今は艶がある気がする。

『じゃあ、紅茶とか?俺イギリスっていったらそれくらいしか思い浮かばない』
「了解。母の家秘伝のブレンドティーをもらってくるよ。美味いんだ」
『マジすか。ちょー楽しみ』

あはは、と笑う声が聞こえる。周囲の音が聞こえないところからして、透の自宅で電話してるのだろうか。

少し会話の間が空く。

「……透?」
『ん?あ、ごめんちょっ、と……家族に呼ばれてた。……ていうか、海外行くんじゃメールもできない?』
「一応通じるように手続きするつもりだが、時差の関係で返事が遅くなるかもしれない」
『そーなんだ。えーじゃあ夜中になったら困るね?』
「それくらい構わない。電話はちょっと出られないかもしれないな」
『紘人先輩も、さ……イギリスの風景とか、写メして送って?俺海外とか行ったことないから、見たい』
「わかった。でも写真の腕は期待しないでくれ」
『いいの、雰囲気雰囲気!だから、お願い』
「ん、わかった」

じゃあ、と通話を切ると、一人きりの部屋はしんとした。
もっと何か話していればよかった。

しかしそんな余韻を払拭するように着信があった。ディスプレイには西村瑞葉の文字。
彼女も透が出るバスケの大会の誘いだったが、同じように断った。

『え、あ〜そっか、来週だったっけ!』
「悪いな。せっかく誘ってくれたのに」
『いいのいいの!だってこの前楽しかったって言ってたから、またどうかなって思っただけだし』
「土産は何が欲しい?」
『お菓子!去年もらったあの缶入りのやつ!』
「スーパーで買ったあれでいいのか?」
『うんそう。可愛い缶だったから取っといて雑貨入れにしてるんだ。あ、レモンカードもほしい!オーガニックのやつ、すっごい美味しかった』
「わかった」

レモンカードか……姉の勧めで買ってきたあれは美味かったな。食通の透も喜んでくれるだろうか。透の好みじゃなくてもご家族の誰かが好んでくれるかもしれない。
どうせ同じところで買えるのだからたいした手間ではない。司狼は甘いものが好きじゃないから別途土産物を見繕わないといけないが。

そんなことを考えながら瑞葉との通話を切った。

そういえば、少し前までは彼女との電話にドキドキとしていたものだが、今日はそうでもなかった。
透との初めての電話のほうがよっぽど緊張していたせいかもしれない。





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