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あの不機嫌な表情を見て心配していたが、翌日昼休みに会った透くんはいつも通りの笑顔だった。

彼が言ったとおり、今日の弁当はどことなく気合が入っていた。
来週は夏休みに入ってしまうのでこの弁当ともしばらくお別れだ。そもそもこの習慣はいつまで続けてくれるのだろうか。

「昨日はその……活躍してたな」
「えーそうかな。先輩達についてくので精一杯だったし全然だったよ?てか、俺がバスケ部って誰から聞いたの?なんか照れる」
「友人……の友人が、きみのファンだって言ってて、その伝手で」
「俺のファン? へー」

ファンの存在を聞いて目を丸くしている。もしかしてファンクラブがあることも知らないのだろうか。僕もその実態は知らないが。

「きみがすごい人気者でびっくりした。全然知らなかったよ」
「んー?でも俺は松浦先輩のファンだけど」
「僕?」

思わず吹き出してしまった。透くんは本当にリップサービスが上手い。

「きみのファンクラブがあるのが分かる気がするな」
「俺本気で言ってるんだけどー」

透くんが唇を尖らせる。拗ねたような表情はなかなか可愛くてまた笑った。
不意に彼が真面目な顔になる。

「ね、先輩……俺も先輩のこと名前で呼んでいい?」
「は?別に好きに呼んでくれて構わないが……」
「だから先輩も俺のこと呼び捨てで呼んでよ」
「いや……それは、ちょっと」
「俺が呼んでってお願いしてるの。ね、いいでしょ?」
「うーん……」

彼のような人気者を僕みたいな一介の生徒が気安く呼んでいいのだろうか。彼のファンから反感を買いそうだ。

「呼んでくれなきゃ弁当もう作って来ない」
「そ、そんな……!」

卑怯な。僕が彼の弁当を好きだと知っていて盾に使うとは。
透くんはニヤニヤと人の悪い笑みを浮かべながら僕にずいと顔を寄せた。イケメンのアップはやたらと破壊力がある。

「ほら呼んで呼んでー?」
「と……透?」

小さい声でそう呼ぶと、透くん……透は満面の笑みを浮かべた。

「うん、紘人先輩」

透も僕の名を呼んだ。彼の涼しげな格好良い声で下の名前を呼ばれたら、何だか額が熱くなった。
今まで他の誰にもそんな風にはならなかった。司狼の低い艶のある声で呼ばれた時でさえ。
僕は動揺してる自分を誤魔化すように俯いてペットボトルに口をつけた。

「先輩かーわいい」
「か、からかわないでくれ」

年下のくせにこの手馴れた感じはどうなのだろう。まるで口説かれているようだ。意識せずやってるらしいところがまたすごい。
僕が男でよかったが、これが女子だったら完全に勘違いするところだ。

透は日を追うごとにじゃれついてくる頻度が高くなっているような気がする。それを嫌だとも鬱陶しいとも思えないのは彼の人徳のなせる業だろう。
人付き合いが苦手だと思っていた僕は、この昼休みのひと時を気に入っていた。




夏休み前に球技大会があったのだが、そこでも透は大活躍だった。彼の種目はバレーだったのでこっそりと見に行った。
ギャラリーが多すぎてよく見えなかったが、その長身を生かしたプレーは場をわかせた。

ちょっと間が空くとばたばたとシャツの裾をはためかせて服の中に風を送り込んでいる。そのたびに脇腹がちらりと見えるから女子達がキャーキャーと喜んでいた。
すぐに僕の参加球技の時間になったので最後までは見られなかったが、運動神経のいい透はやはり格好良かった。

帰宅すると『先輩見た〜。ドリブルかっこよかったよん』とボールの絵文字とともに透からメールが来ていた。
僕はサッカーだったのだが、あの散々なプレーを見られてたのだと知って恥ずかしくなった。





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