30


胸の下に腕を差し入れ、力を込めて抱き締める。
荒く息を吐く紘人の心臓は、すげードクドクいってる。

「……紘人、超すき……」
「ぁ、透……んっ……」

勢いをなくしたチンコを引き抜いてゴムをはずし、テーブルの上のティッシュに手を伸ばした。
徐々に熱が冷めていく。吐き出して満足だし落ち着いちゃったけど、紘人のことが愛おしくてたまらなくて、肩やうなじに何度もキスをした。
そうやってしつこくチュッチュしてる最中、熱気のこもった甘い空気を醒ますようにテーブルの上に置かれた紘人のスマホが振動した。
すぐに切れないってことは着信?

「と、透……」
「んー?」
「僕のスマホ、取ってくれないか……」
「やだーだめー」

エッチ直後の気だるく甘ったるい声をした恋人を電話に出したくなくてがっちりホールドする。だけど紘人は困り果てた表情で俺のほうを向いた。

「でも家からだったら困るし……」
「………………もー、わかった」

起き上がって、抱き込んだ体をしぶしぶ開放すると、紘人はスマホを手に取って画面を確認した。着信に応じる前に沈黙するそれ。

「親?」
「いや……」

どうにも歯切れの悪い返事だった。
間を置かずまたスマホが震える。でも今度はすぐに振動が途切れた。メールとかかな。
画面をタップした紘人が難しい顔で首を傾げた。

「どーしたの?メール?」
「……透、ちょっと聞いていいか」
「なに?」
「きみ、司狼と知り合いか?」
「……はぁ?」

この人の言う『しろう』ってのは真田先輩のことだよな。
いきなり何言い出すんだろうと思ってたら、紘人は俺にスマホの画面を見せた。――『秋葉とかいう後輩に襲われないようにな』?

「なにこれ」
「いや、僕にもさっぱりだ。知らないうちにきみが司狼と親しくなったのかと思ったんだが、そういうわけじゃなさそうだな……」

俺にはすぐにこのメッセージの意味が分かった。真田先輩が俺の名前を知ってたのは驚きだけど。
俺も校内ではそこそこ名前が知られてるみたいだから単純にあの人の情報網に引っかかったのか、それとも紘人の周りをうろつくヤツとして警戒されてたのか。

どっちにしろ要注意人物認定されてるらしい。
そうやって目の敵にされたらいい感情は持てない。それでなくても元から気に入らなかった人だし、これでくっきりと対立の線引きがされた。

「さぁ、どういうことだろうね?しーらない」

適当にとぼけたら紘人が俺の手を軽く握ってきた。

「あの……というか」
「ん?」
「……むしろ僕のほうがきみを襲ったような……」
「えっ俺、襲われたの?イヤーン紘人さんのケダモノー!」

げらげら笑いながら紘人の肩を抱く。
たしかに今日「したい」って言い出したのは紘人のほうだけど、それが『襲う』のうちに入るのかは謎だ。つーかあんな可愛い襲われ方ならじゃんじゃんされたい。
そしてやっぱりゴムは三個パックのを買い足そうって決めた。この調子じゃすぐなくなっちゃうから。

「てかさ、今日は紘人もスマホ切っとこ。今日だけお願い。あんたとの時間を誰にも邪魔されたくない」
「ああ、そうだな。僕もそうしたい」

紘人はスマホの電源を落としソファーにポイッと放り投げて、俺の唇に吸い付いてきた。その積極的な行動に思いがけずドキッとする。
……時々、この人が本気のイケメンでやばい。さっきもそうだったけど、理子から借りて読んだ少女漫画のヒロインみたいな気持ちになる。俺が。

そのあとは二人で一緒に風呂入って、まだイってなかった紘人をフェラで気持ち良くさせて、同じベッドでじゃれあいながら寝た。





土日の部活は二年が意気消沈……じゃなくてやけにはりきってた。俺とは依然ぎくしゃくしたままだけど、特に問題なく練習をこなせた。
きっと部長たちは立花先輩らと色々話したんだろうな。その内容は分からないけど、何か身になるような話し合いだったことを願うばかりだ。


そうして迎えた翌週月曜日の朝。
登校した俺にひとつの噂が耳に入った。ていうか吉住と勇大がニヤニヤしながら部活前に聞かせてきた。

「なあ透、お前先週、松浦先輩に怒られてたんだって?」
「はぁ?」
「上級生ゾーンにまで押しかけて〜なんかチョー失礼なことしたんでしょお?先輩困ってたって話じゃーん。とーるちゃん、きちんと謝った?」

いやいや、あれは紘人と真田先輩の噂を上塗りしたくて……あ、失敗したんだ。
そのことに気付いた俺はその場にしゃがみこんで頭を抱えた。
クソ、手ごわいな真田司狼。――ま、譲る気なんてこれっぽっちもないけどね!

朝練が終わって教室に入ったら、自分の席を素通りして、みんなに挨拶しながら窓際に近寄った。
しばらく待つと昇降口に向かって歩く紘人の姿が見えてきた。
土曜日は約束通り映画デートしたけど、そのあとたくさんエッチしちゃったから紘人の体が少し心配だった。具合悪くなったりして学校来れないんじゃないかって。
けれどそんなこともなくいつも通り、時間ギリギリ登校してきたからホッと胸を撫で下ろした。

今日も俺の彼氏は美人で可愛い――そんな風にデレデレしてたら、ふと、紘人が上を向いた。
彼とパチッと目が合う。
俺はすかさず紘人に向けて笑顔で手を振った。すると、あの人が照れ笑いをしながら、そっと片手を上げて応えてくれた。

紘人が、教室の窓から見てる俺に気付いたのは初めてだった。
今日に限ってどうしてかな。もしかしてこれが以心伝心ってヤツ?
昇降口方面に消えていく紘人の姿を見送ったあと、俺は、世界で一番幸せな男の気分で鼻歌を歌った。


end.


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