27





「……ねえ紘人、腹減ってる?」
「いや、全然……」
「……俺も」

正直、胸がいっぱいで腹減るどころじゃない。
感動の初セックス後のせいか、寄り添いながらイチャイチャベタベタしてるだけで、ホントもう色々なものが満たされちゃってる。食欲すら湧かないくらい。

――今日は、急だったけど紘人の家にお泊まりすることになった。
母さんに電話したらあっさり外泊許可が下りたけど、直後に兄貴からガンガン着信かかってきて、ウザくなったからスマホの電源を落とした。
シャワー浴びて、ベッドのシーツ替えて、そのあともう一回家に電話して紘人に出てもらった。
紘人を家に残して俺がレンタルショップに行ってDVDを借りてきた。だけどなかなかDVDを観る気になれない。
だって、こうして何をするでもなくくっついてるのが超幸せ。紘人も同じみたいで、俺にべったり。

急な泊まりだったから着替えは紘人の服を借りた。それほど体格差がないから難なく着られたけど、実はこれって彼シャツじゃね?そう思うとめちゃ恋人っぽい。
そんなささいなことでひそかに喜んでたら、紘人が「あっ」と声を上げた。

「そういえば、先日仕送りが届いたんだ」
「んー?そうなんだ」
「ああ、だから食料はそろってるし、好きなときに食べればいい」

紘人の言う仕送りってのは実家からのものだ。
この人がまともに一人暮らしができないことを見抜かれてるのか、紘人の実家からは食料品や細々とした生活物資が頻繁に届くらしい。
パスタとか、瓶詰めのピクルスとか、ギフト御用達っぽい燻製物とか。いつも俺に分けてくれる茶葉やコーヒーもここに含まれる。
紘人は「自炊してる」って言うけど、この人の言う自炊ってのはそうやって送られてくるレトルト食品を温めたり、ハムやチーズを切り分けたり、パスタを茹でることらしい。それは料理とは言えません!
主食はほとんどパンみたいだしちゃんと食ってるのか心配になる。それなのに風邪引いたり体調崩すことがほとんどないっていうんだから、ヘンな人。
そうだ。パンって言葉で急に思い出したことがある。

「……わっすれてた。俺、あんたにお土産あったんだ」
「土産?」
「そ。ほら、三連休に家族で親戚んちに行ったっつったじゃん?そのときお土産買ってきたから渡そうと思ってたんだけど、今週全然会えなかったから」
「そうか……それは気を遣わせてすまなかった」
「んーん、いいよ。だから来週学校で渡すね。消えものだけど賞味期限長いし」
「ちなみに何だ?」
「ジャム。親戚んちの近所に専門店があってさ、いとこのおすすめ。俺も食べてみたけどうまかったよ」

甘いもの一切ダメっぽく思われがちな紘人だけど実はそうじゃない。
チョコやクッキーみたいな甘みのものが苦手で、果物メインなら好んで食べる。中でも、パン食が基本だからジャム類は好きらしい。
前に紘人からレモンカードもらったし、ジャムだったらハズレがないかと思って選んだ。甘さ控えめのりんごとシナモンのジャムで、アップルパイみたいな味。
こんな風に細かい好みを覚えるのって好きな人相手じゃなきゃできない。そういうのが伝わったのか、紘人が照れくさそうな表情を見せた。

「……うん、ありがとう。楽しみだ」

嬉しそうな弾んだ声して俺の肩にもたれかかってくる紘人。やばくない?こんな可愛いことする人だっけ。
明日は部活行く前に一度家に帰るつもりだから、やっぱりそのときにお土産のジャムも持ってこよう。
紘人の喜ぶ顔を想像してニヤニヤしながら軽くキスをした。唇を離すと今度は紘人のほうから追ってくる。もう今日はずっとこんな感じ。

「……紘人、体は大丈夫?」
「へ、平気だって何度も言ってるだろ」
「えー?だって俺、かなり強引にやっちゃったでしょ?これでも反省してんの」

平気って言うわりにいつもより動作がぎこちない。歩くとき、腰やお尻を庇いながらなのバレてるからね?まあ俺もちょっと腰にきてるけど……。
紘人は決まり悪そうに組んだ足を解きながら俺の手に自分の手を重ねてきた。

「借りてきた映画は何だ?せっかくだから観ないか」
「ん、そうだね」

紘人にまたチューして、テーブルに置いてあったレンタル店の袋を開けた。
旧作の洋画を二本。紘人が何でもいいって言うから、今日のところは俺の好みで選んできた。

「どっちがいい?感動系とコメディ系」
「両方観よう」
「じゃ、コメディ系からいこっか」

あんまり使われてないっぽい再生機にディスクをセットして、テレビをつけた。
ソファーに座り直して紘人の手を握る。そうすると自然に指が絡むあたり、俺らの恋人度が上がったんだなって実感できる。
映画は有名俳優とCGの動物が巻き起こす愛と情熱の糞コメディー。俺はこういう分かりやすい娯楽映画が好きだ。あらすじや出演者で気になれば何でも観るけど、結局好みは偏ってる。
紘人はどうかなぁと思いながらチラッと隣を見たら、やけに真剣な表情で観てた。

「紘人?」
「なんだ」
「あんま面白くない?」
「そんなことはないが……スラングが多くて難しい」

このバカ映画が難しい?あ、もしかしてハリウッド映画だから?
家系が複雑な紘人が使うのはイギリス英語で、アメリカ英語とは単語や言い回しの微妙な違いで時々混乱することがあるんだとか。
日常会話程度なら全然気にならないけど、アメリカ英語を使う英語の授業はちょっと苦手って理由でテスト勉強では教えてもらえなかったくらい。

「だったらいっそ吹き替えにする?」
「……そのほうが観やすいかもしれない」

リモコンで日本語吹き替えモードに切り替えて映画再開。それでも紘人は真面目な顔で観てるからおかしくなった。
だらしなく寝転がって紘人の膝の上に頭を乗せる。膝枕の状態で、紘人の腹側にごろんと顔を向けた。

「……透、それじゃ見えないだろ」
「字幕じゃないし音聞いてるからいい。俺、これ何度も見てるし」

画面に背を向けて目を瞑った。紘人の匂いと膝の温もりをそうして堪能する。
そのうちに頭を撫でられる感触がした。指通りをたしかめるみたいにして髪を梳く恋人の手。
普通だったら気持ちが落ち着くとこだけど、俺は真っ先に下半身が反応した。だって紘人がこんなことしてくれると思わなかったんだもん。


prev / next

←main


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -