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そうやって変態っぽく匂いを堪能してたら先輩に遮られた。

「あの、そういえばこの前言っていたデートっていうのは、どこに行くつもりだったんだ?」

ああ、俺の用事のせいで行かれなかったデートのことね。

「んー?ちゃんと決めてたわけじゃないけど、映画とか行きたいなって思ってた」
「だったら、次の休みの日によければ行かないか?」
「ほんと?」
「ああ。きみの予定に合わせるから」
「……なんかごめんね。部活とかそーゆーのばっかで。つか、待たせたりすんの悪いし遠慮してたんだけど……」
「さっきも言ったが、僕はきみと一緒にいられるのが嬉しいんだ。僕はそれほど予定が詰まってるわけじゃないし、待つことくらい別に構わない」

先輩は今日、どこまで俺を喜ばせてくれるんだろ。
じゃあ、俺のこと待っててって言ってもいいの?もっとたくさん放課後デートできる?
――放課後デートで思い出した。ゴムを買いに行ったあの日、俺も嬉しかったってちゃんと伝えなきゃ。

「……この前、ゴム買いに行ったじゃん?」
「ん?ああ」

言いながらさりげなく先輩の体を撫でさする。そうしても嫌がる気配がなかったから、背中から腰にかけてするすると手を這わせた。

「あの時さぁ、実は俺、すっげービビッてたんだよね」
「そんな感じには見えなかったが……」
「してたんだって!だって付き合ったばっかでデートとかもあんましてないのに、ヤリ目みたいに思われたらどーしよとか、それで嫌われたら怖いなあって。ほら、先輩ってそういうとこ余裕っつかガツガツしてないし」
「やりもく?」

あ、気にするのそこ?

「エッチ目的……うーん、体目当て?ってこと」
「あ、そ、そうかなるほど」

理解した、と先輩が頷く。つくづく真面目な人だなぁ。

「あの……別に僕は、そう言われるほど余裕ってことはないんだが……」
「そう?けっこー淡白じゃない?」
「いや、普通にいやらしい気持ちになったりするし……」
「マジすか。えー、どういうときに?」
「き、きみといるとき、とか」

もうなんなの!?この人はこれ以上俺を舞い上がらせてどうする気だよ!
可愛い、先輩かわいい、好き!

「……でもほら、先輩はそーゆーのあんま口に出さないじゃん」
「そ、それは恥ずかしいから言わないだけで」
「逆に、俺っていつもヤリたいとかそんなことしか言ってなくね?ってあとで気づいて焦ったんだよね」

先輩の額にかかる前髪を指で払いのけた。青い瞳が熱を孕んだようにわずかに潤んでいる。

「エッチしたいのは本心だけど、そういうのだけじゃなくて、ほんとに先輩のこと全部好きだから」
「ん……」
「一緒にいたくてしょーがないのは俺も同じ」

そう言うと、先輩の肩がピクンと揺れた。いつのまにか形を変え、俺の腿に当たるものがある。

「……名前」
「え?」

艶のある囁きが先輩の口からぽつりと出た。

「『先輩』じゃなくて、名前で呼んでほしい……」

おねだりするような先輩の――紘人の甘え声が俺の鼓膜を震わせた。
学校では『先輩』呼びを徹底してる。それはもうほとんど癖になっていて、なかなか簡単に崩せない。
だけど彼は今、『恋人の俺』になってほしいって言ってくれた。

「――紘人」
「……ん」

紘人。紘人――!

もう、ごちゃごちゃ考えることを放棄して、紘人の上に覆い被さった。


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